N.S.
右:(株)Gakken 学校教育事業本部 小中教育事業部 企画制作課
E.B.
左:(株)Gakken 学校教育事業本部 小中教育事業部 企画制作課
教育系デジタルコンテンツやサービスの拡充は、学研グループの中期経営計画における重要ポイントのひとつとして挙げられています。なかでもデジタル体力テストは、教員の負担軽減やデータに基づく指導や学習の基礎となるサービスとして期待されている注目事業です。加えて 2024 年 3 月 14 日に公表された株式会社 SPLYZA との業務提携により、動作分析や動画解析ツールなどと組み合わせたサービス展開へとますます期待が広がっています。今回はそれらのツールを活用した事業を担当するお二人に、体育分野でのデジタルコンテンツを活用した学びへの期待について展望を伺いました。
私たちが所属する小中教育事業部では、主に小中学校を対象とした教科書や副読本、各種ドリル、特別支援教材などを扱っています。紙ベースの教材はもちろん、近年ではデジタルの学習ドリルや動画教材なども徐々に充実してきています。さらに、2023 年からは PestalozziTechnology 株式会社(以下、ペスタロッチ社)との協業により、デジタル体力テスト『ALPHA』を提供しはじめました。
ペスタロッチ社とは、学研ホールディングスによる CVC 出資と業務提携により、ビッグデータを活用した健康な体づくりに寄与する新規事業・サービスの開発などを協働で推進しています。Gakken グループ全体では教育分野と医療分野での連携がありますが、私たちの教育分野では、まず体力・生活習慣データを活用して子供たちの健康づくりへの貢献をめざしています。
そのベースにあるのは、文部科学省が提唱する GIGA スクール構想です。学校では児童生徒に 1 人 1 台の端末が整備されるなど、デジタル化が進行しています。『ALPHA』は、端末を活用した個別最適な学びを可能にするツールです。その『ALPHA』を担当してくれているのが、E.B.さんです。
そうですね。私が異動してきたのが 2023 年の初秋頃で、右も左もわからない状態でしたが、よく N.S.さんに質問したり、実際にサービスを使用してくれるユーザーからお話を聞いたりしながら、とにかくまずはどうしたらよりユーザーに喜ばれるサービスにできるかを考え、走り回っていました。
体力テストは、「体力・運動能力調査」として、1964 年東京オリンピックの頃から実施され、ずっと紙ベースで行われてきました。ただ、子供たちが測定し記録を確認して、まとめて、発送してなど、先生方には相当の作業コストが生じていました。しかも記録の修正があったら、もう一度全部確認し直して、数字を正しいものに修正して……と、非常に負荷が大きかったのです。そうした負担を軽減したいことや GIGA スクールによる教育現場のニーズに応えるべく、当社でもデジタル化の方向性を探っていました。そのときに出会ったのが、ぺスタペスタロッチ社の『ALPHA』です。『ALPHA』はすでに学校に提供され、現場に広がりつつありました。しかし、両社の強みを活かすことで、体力テストのデジタル化のみならず運動・健康分野で、学校現場の課題解決に貢献したいと協業がスタートしました。
当社では『ALPHA』の営業と販売を 2023 年度からスタートしましたが、ご案内当初はまだ慣れ親しんだ紙を用いた調査を選択される学校がほとんどでした。ただ、この1年のうちにデジタル体力テストへのニーズがどんどん反響が高まっていることを実感しています。
2024 年度に入ってからは爆発的な勢いで導入が決まっています。紙での調査に慣れている先生方も多いと思いますが、それでもデジタルの利便性を感じ、多くの学校様が切り替えてくださるので、先生方や学校の意識が変わってきているのかもしれません。
業務の省力化は最大のメリットで、紙の調査用紙を用いた体力テストの作業時間約 1,185 分が、『ALPHA』導入後に 120 分まで短縮されたというデータもあります(ペスタロッチ社調べ)。「おかげで子どもたちと向き合う時間が増えた」と、嬉しい声も届くようになりました。
また、子どもたちはデジタルネイティブ世代なので、ツールをすぐに使いこなせるようになります。結果を即時に閲覧できることは、調査結果を活用につなげやすくするメリットがあります。さらに『ALPHA』では「自分の体力はどの程度なのか」「全国で比較するとどうなのか」「去年の自分と比較してどうだったか」といった結果もすぐに見られるので、自分自身の成長や得手不得手を把握しやすく、友達どうしで一喜一憂しながら使っているといった話も届いています。一人一台端末を使って課題の把握と分析が容易にできるため、個別最適な学びを支えるツールとして有効活用してもらえているように思います。
『ALPHA』はブラウザ形式なのでインストールする必要がなく、ログインすればすぐに使えます。校庭はWi-Fi 環境が整わず活用できないツールも多いですが、『ALPHA』はオフラインでも記録の入力でき、Wi-Fi 環境に戻ったときにデータが自動的にアップロードされます。
測定結果がすぐにデータ化され、活用できるようになることは、体育における探究的な学習を支えるポイントにもなると思っています。
たとえば、体力テスト実施後に結果がすぐにわかると、「もっと速く走りたい」「もっと遠くへボールを飛ばしたい」などといった改善へのモチベーションも高い状態となりやすいと思います。そして、改善するためにはどうすればいいんだろうと思ったときに、課題を発見したり、解決策を探ったりする手がかりとして各教科の教科書や副読本などを用いると効果的な学習につながると考えています。
体力テストでは自分の測定結果を客観的なデータとしてとらえることができるので、探求的な学習のきっかけとして有効に活用できるものだと思います。
さらに最近では、株式会社 SPLYZA(以下、スプライザ社)との業務提携により、映像分析や共有、動作分析に役立つツールなどを学校現場に提案できるようになりました。『SPLYZA Teams』は動画に複数人のコメントを付けられるシステムで、撮影した動画を再生しながら仲間とコメントを書き込めます。たとえば逆上がりの様子を撮影した動画に、「ここでひじが伸びているね」とコメントすると、そのコメントにさらに別の人がアドバイスを書き込むなどできます。
また、『SPLYZA Motion』は、撮影した動画を、頭、肩、腕、手、腰、足などがプロットされたいわゆる棒人間の動きとして再生することができます。野球やゴルフの動作分析などでよく使われているモーションキャプチャーを、特別な準備なしに端末のみで活用することができます。理想的な動きとの比較や過去の自分との比較が簡単にできます。
協働で課題を発見したり、解決策を考えたりする場面で活用しやすいツールで、冒頭でお話しした端末を活用した個別最適な学びや探求的な学習をサポートできるご提案ツールが増えています。
既に採用になったものとしては、デジタル体力テストで A 判定になった子たちへのデジタル証書があります。紙版では、個人判定票や証書を手にするまで数週間のタイムラグがありましたが、デジタルになってから「すぐに見たい!」という要望が非常にたくさん届きました。それを受けて、今年度からは先生の端末でダウンロードできるよう改善しました。きっとモチベーションの向上や喜びの共有につながってくれると思います。
各自の記録との比較対象を増やそうとしています。もともと全国平均値との比較などはできますが、さらに、たとえば 4 月の自分の記録と 12 月の自分の記録といったような、同じ年度の自分自身の成長記録を比較できるようにしたいと考えています。成長を実感できると、学びにより前向きになれる面もあるのではと期待しています。
また、ペスタロッチ社やスプライザ社のデジタルツールと、学研に蓄積した教育コンテンツをパッケージ化して、運動や健康教育の領域で役立てもらえるようなサービスを提供していきたいと思います。
体育分野で考えると、私はもともと運動やスポーツをすることは好きなほうですが、好きか嫌いかにかかわらず、子供たちが運動やスポーツを通してワクワクや学びを得られる場面を創り出せたらと思います。そのための選択肢の一つとして、デジタルツールを有効活用した提案をしていきたいと思います。
体育が苦手な子は「自分の能力が低いから」と考えてしまいがちだと思うのですが、SPLYZA のようなツールを使って自分で考え試すことで、上達したり楽しめたり、あるいは『ALPHA』で自分の成長を感じられたりすることで、少しでも好きになれるのかなと思います。そのためにも過去の自分と比較できたり、プロスポーツ選手の動きと自分の動きを比較できたりすると課題の発見や改善の役に立つと思います。誰もがウサイン・ボルト選手や大谷翔平選手になれるわけではないのですが、運動も自分自身も、両方好きになってもらえると嬉しいです。
N.S.
(株)Gakken 学校教育事業本部 小中教育事業部 企画制作課
2004 年、旧学習研究社に入社。主に小中学校向けの副読本等の編集を経て、現在は事業部門において、小中学校向けの商材・サービスの企画開発を担当。教科書・副読本、特別支援教育を中心に、文教市場向けの教材コンテンツの制作と販売に携わる。
新たに家族に加わった犬との時間が至福のとき。
E.B.
(株)Gakken 学校教育事業本部 小中教育事業部 企画制作課
2012 年入社。雑誌のマーケティング・編集、(株)学研ホールディングスを経て、2017 年以降は文教市場を対象とした新規事業開発に従事。学校・自治体向けに、紙の教材の価値を生かしたオンライン学習サービスを提供。現在は、保健体育・道徳分野において、副読本や体力テスト等の商品開発・企画・デジタル化推進に携わっている。旅行が大好きで、マチュピチュを再訪するのが夢。
※ご紹介した情報、プロフィールは取材当時(2024年4月)のものです。