R.S.

左:メディカル・ケア・サービス(株) 愛の家グループホーム中野上高田 ホーム長

H.K.

右:メディカル・ケア・サービス(株) 愛の家グループホーム中野上高田 ケアスタッフ

認知症ケアを専門とするメディカル・ケア・サービスは、認知症の高齢者を対象としたグループホーム「愛の家」を中心に、各種介護サービスを全国で340拠点以上展開しています。2025年には高齢者の5人に1人は認知症になるといわれる現代*において、認知症ケアの充実とそれを取り巻く社会情勢の変革、介護職の地位向上は今後ますます求められていきます。「愛の家グループホーム中野上高田」(東京都中野区)のホーム長とケアスタッフに話を聞きました。

*厚生労働省「認知症施策推進総合戦略」資料より

認知症になっても「その人らしい生き方」を実現するために

認知症ケア専門のグループホームで働くことの「魅力」を語ってください。

「愛の家グループホーム」では認知症の進行を緩やかにするために、日常生活のサポートはもちろんですが、会話を中心としたコミュニケーションやレクリエーションに特に重きを置いています。ご入居者が人とかかわる機会が多くあるのが特長といえます。心掛けているのは、その人が得意だったことを入居後もなるべく続けてできるようにすること。少人数が共同で生活するグループホームなので、ご入居者には自分の家にいるときのように家事をしてもらうこともあります。あるご入居者は、私が台所で洗い物をしていると「食器を拭こうか」と積極的に声をかけてくださいました。その方は子どものころ食堂を経営していた家庭で育ち、結婚後も夫婦で飲食店を営んでいたそうです。「だから私、こういうことが得意なの」とおっしゃって、家事をしながら昔の話を聞かせてくださいます。
やりがいを感じる場面はたくさんありますが、中でも入社して間もないころ、ご入居者の100歳のお誕生日会を企画したときのことが心に残っています。初めての経験だったので先輩にいろいろ教えてもらいながら、一生懸命に準備しました。ご家族にも「お誕生日会を開くので、おめかし用のお洋服があったら持ってきてくださいませんか」とお願いしました。コロナ禍の最中だったのですが、100歳のお誕生日をご家族にも祝っていただきたくて、当日は娘さまにも来ていただきました。お洋服を着替えて、皆で「おめでとう」とお祝いしました。すると、普段はちょっとうつむきがちな方なのですが、お誕生日会の間は顔を上げて、ずっとニコニコされていました。私もとてもうれしかったです。
新卒で介護の世界に入って3年目。人に対して優しくなった気がします。ご入居者が歩んできた、さまざまな人生を見つめる中で、いろいろな価値観を広く受け入れられるようになったのかもしれません。

学生時代の私は介護にさほど興味があったわけでもなく、将来の仕事としてもあまり考えたことはありませんでした。それが縁あって介護の世界に入り、9年目になる今では、この仕事にすっかり“ドはまり”しています。ご入居者とのコミュニケーションを深める中で、こういうふうにするとこの方は笑ってくれるんだ、この方が怒るのはこういう理由からなんだ、積み重ねてきたたくさんの過去や歴史があり、その結果としてこの方の今があるんだ、などと考えるようになり、そこから新たに見えてくるものに興味を覚えるようになりました。入社後は、認知症についての勉強はもちろんですが、心理学の勉強も始めました。

介護の現場で特に大変だったことはありますか?

入社当初は、車椅子からベッドへの移乗などの身体介助、ご入居者の認知症に対する不安への声掛けもうまくできなくて、先輩に頼ってばかりでした。一つひとつ先輩にたずね、先輩のやり方を見て、ときには手取り足取り教えていただきながら現場で学んでいきました。特に移乗は一つ間違えたらご入居者が骨折してしまうので、すごく不安で、自分一人でできるようになってからも、先輩に「ちょっとついてきて、見ていてもらえませんか」とお願いしていました。今も仕事が大変なことに変わりはありませんが、やり方やコツがわかるようになった分、体の疲れやストレスはかなり軽減しましたね。

本人の力を最大限に引き出す、独自の「自立支援ケア」

ご家族による自宅介護では難しいけれど、認知症専門の介護施設やスタッフだからこそできることはありますか?

介護施設の強みは、24時間365日、スタッフが勤務を交替しながら、その人をずっと見続けていられるというところです。ご家庭でご家族が24時間見ていると、どうしても疲れ、そしてストレスや怒りにつながってしまう。そこには、むしろご家族だから、という理由もあるかと思います。ご家族だから、そして認知症になる前の元気だったころの姿を知っていますので、つい、そのころと比較して「なんで、うまくいかないんだ」とネガティブな気持ちになってしまう。そうした苦しみを抱えているご家族の方は多いと思います。私たちは直接ご家族をケアするわけではないのですが、ご入居者の様子を見て安心していただくことによって、ご家族の気持ちも少し穏やかになればいいな、というのが願いであり、私たちの役割だと思います。だからどうか安心して「愛の家」にお任せください、とお伝えしたいですね。

認知症の方の介護で大切なことは何でしょうか?

まず、先ほどいった家事のように、その方の能力を生かすこと、その方ができることや、あとちょっとでできそうなことを支援することです。
また、その方が長い人生の中で培ってきた価値観を尊重することも大切です。スタッフが調理中にキャベツの芯を捨てようとしたところ、ご入居者が「ここをこうやって刻めば使えるよ」と教えてくださって。そこから、物がなかった戦争時代の話をしてくださいました。そんなふうに、ご入居者の生活の知恵や小さなこだわり一つひとつを大事にできれば、と思います。
自尊心を守ることも大切です。たとえば排泄のケア。ちょっとふらつきがあるご入居者は、転倒が怖いのでトイレの中まで入って手伝ってあげたい気持ちがありますが、誰だって排泄している姿を人に見られたくはありません。ですから、その人が転倒しないように一人で排泄できるケア方法をケアスタッフの側で考えるなど、そういうことを大切にしていますね。

私は認知症の方にとって大事なのは、ご家族、ご友人、地域との「つながり」だと思います。施設に入ると外界から完全に隔離されて、すべてのつながりがハサミでチョキンと切られたようになってしまう、というイメージが今まではありました。しかし、我々はそうではなく、これまでの暮らしや、自分が昔がんばったことや仕事などの延長線上に今があって、切り離されてしまうことはない、と安心してもらえるようなケアをする。それがあって、ご入居者は自分のやりたいことを実現できます。その結果、認知症の進行が緩やかになっていくことも期待できると思います。

「自立支援ケア」によって、入居者のQOL(生活の質)が向上した事例はありますか?

「愛の家」では、水分補給、栄養、運動、排泄など生活の基本を見直すことで、ご入居者の当たり前の生活を取り戻す「自立支援ケア」に取り組んでいます。
入居者の女性で、骨折して病院で脚にボルトを入れる手術をした後、入院生活を経て、こちらに戻ってきた方がいらっしゃいました。退院後、以前にはなかった幻覚に悩まされるようになりました。実はこの方、入院中は十分に水分を取れていなかったようでした。脱水によって電解質のバランスが崩れることでせん妄を引き起こすことがあります。そこで、「愛の家」の自立支援ケアのプログラムに沿って、一日あたり入院していたときの倍にあたる1,000~1,500ccぐらいの水分を取ろう、ということになりました。すると、水分補給を始めた2日後に幻覚は消えました。また、その方は、ボルトを入れてから歩けなくなっていたのですが、適切な運動によって、つえを使用して歩行できるところまで回復しました。

子どもたちのなりたい仕事ランキングに介護福祉士を

「愛の家」のデジタル化の状況について教えてください。

私たちの現場ではスマートフォンの介護記録システム「Notice」を使用しています。今まで手書きで行っていたのですが、スマートフォンの中にデータを入力・蓄積することによって、それをグラフ化したり、医師に提示したり、ご家族に説明したり、脱水の症状などもグラフを見ればひと目でわかります。介護記録の電子化は業界的にも進んできてはいますが、愛の家ではその日の勤務者がスマートフォンを持ち、たとえばご入居者のお食事の摂取量などもその場でパパッと入力ができるようにしています。このシステムは現場の声を反映させ、当社独自の仕様にしているものなので、現場で使いづらいと感じたことはどんどん提案して、より使いやすくしています。
もう一つ、当社では、計測値が介護記録システムへ自動反映される、通信機能搭載のバイタル機器を導入しています。こうしたデジタル化によって、スタッフの負担がかなり軽減しました。

ご入居者の血圧を測定中。<br/>この手首式血圧計で測定した計測値はスマートフォンへ自動連携される。
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ご入居者の血圧を測定中。
この手首式血圧計で測定した計測値はスマートフォンへ自動連携される。

今後の展望や夢はありますか?

介護福祉士の国家試験の受験資格(実務経験3年以上)が今年やっと得られるので、資格を取りたいです。また、最近は徐々に後輩の指導をするようになってきたので、介護の基本を私に教えてくださった先輩方のように、私も後輩から頼られる先輩になりたいと思います。

介護という仕事が、子どもたちのなりたい仕事ランキングにないことが少し悲しいと思っています。理想論だといわれるかもしれませんが、介護をやりたいという人を増やしたいのです。自分が介護の仕事に就いたとき、なぜか周りから「大変だね」と言われることが多く、これがもし、ほかの仕事だったらそんなことを言われるのだろうか、と少しモヤモヤしました。介護にまつわるネガティブなイメージを変えていきたいです。「介護の仕事をやっています」「いいね! 楽しそうだね!」と言われたいのです。
最近、子ども向けの職業体験型テーマパークに介護福祉士体験のアトラクションが登場したというニュースがあり、うれしくなりました。当社でも今、首都圏を中心とした小・中・高校向けに認知症教育の出前授業をやっています。認知症の症状や正しい声掛け、介護の仕事の魅力などの話をしています。次の世代の若い子たち、そして子どもたちにも、認知症についての知識だけでなく、介護の素晴らしさや強みの部分を知ってもらいたいと思います。

R.S.

メディカル・ケア・サービス(株) 愛の家グループホーム中野上高田 ホーム長

2015年に新卒入社。基礎を学びながら資格を取得し、3年後にリーダー・計画作成担当者を任される。2020年に管理者となり、愛の家グループホームGH西東京中町で地域とのつながりやスタッフの教育などに尽力する。特に認知症カフェの共催や壁新聞の作成に注力し地域の方に知ってもらう活動を行う。2022年には育成研修や新卒研修にも携わり、8月から愛の家グループホーム中野上高田へ着任。
趣味は絵を描くことで、絵の個展を開催したことも。

H.K.

メディカル・ケア・サービス(株) 愛の家グループホーム中野上高田

2021年に新卒入社。愛の家グループホーム中野上高田の介護職員として働き、食事・入浴など、介護士としての基本的なスキルを身につける。現在は居室担当として、ご入居者の誕生日会などのレクリエーション活動に精力的に取り組むほか、訪問診療などの外部の対応も任されている。
アイドルが好きで、年に10回以上はライブなどのイベントに行っている。

※ご紹介した情報、プロフィールは取材当時(2023年10月)のものです。

サービス・事業紹介

認知症ケアに特化したグループホームを中心に介護施設を全国で展開。
住み慣れた街で出来る限り「家」と同じように。少人数制で、一人ひとりの状態に合わせた個別ケアを提供します。