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元教育長の子育て歳時記

第15回・冬「挑戦」 学研教育総合研究所 客員研究員 高橋良祐

新しい一年が始まった。

元旦は新鮮な心で迎えたいと毎年心がけてきた。「そんな思いは誰でも同じだよ」という声が聞こえてくるようだが、お正月を迎える何とも言えないわくわく感が私は格別好きだ。幼い頃から、新年に対する思いは大きく、遠大(無謀ともいう)なる計画を立て、年度半ばにはほとんど計画倒れしていたが、元旦はそのことを私に忘れさせてくれた。今年こそは中途半端ではなく計画通りに「希望とやる気」に満ちた年になるはずだと思い込ませてくれるのだった。


(写真提供:髙橋良祐客員研究員)

私事で恐縮だが、昨年末は生涯初となるフルマラソンに出場した。その大会はホノルルマラソン。世界中のマラソン初心者が挑戦し、完走率は95%にも達するという。こんなに完走率が高いマラソンは他になく、高齢者の方々やベビーカーを押しながら走るママさん、ヘルメットに大きなリュックと戦闘靴の兵隊さん、新郎新婦姿の幸せいっぱいのランナーなど老若男女がそれぞれの目的のために楽しみながら挑戦しているマラソン大会だ。
完走できたとは言っても、大会直前に足を痛めてしまい満足できるタイムではなかったため再挑戦を心の内で決めている。若い頃からスポーツは大好きで野球を中心になんでも取り組んだ。小中学生の頃はスピードスケートの大会に出たこともあるし、高校生の頃はスキーにも夢中になった。大学受験中には運動不足とストレス解消を兼ねて空手にも少々取り組んだ。全く自慢にはならないが、空手の大会では負け知らず(一戦一勝)だ。

そんな私だが、スポーツの基本である「長く走ること」は大の苦手で、走ることが好きな方の気が知れないとさえ思ってきた。したがってマラソンどころか、1km走るのもうんざりという状態であった。どうしてそんな私がホノルルマラソンに出ようと思ったのか、理由は色々あるが、ハワイに行ってみたかったこと、大会参加を希望していた妻の勧めがあったこと、ホノルルマラソンは時間無制限だということ、歩いてばかりでも完走と認めてくれることなどが挙げられる。そして最大の目的は、霜降り状態になっている全身を夏の海に似合う体に戻すべく、人生最後になるだろう肉体改造に挑戦してみようと思ったからである。

しかし、すぐに長距離を走るのは足腰に多くの負担がかかり長続きしないと判断し、まずはダイエットと筋トレから始めた。ダイエットは糖質の摂取を少なくすべく夕食での炭水化物を取らないように決めた。好き嫌いなくしかも胃腸が丈夫な私はなんでも美味しくパクパク食べる質であるが故、このダイエットに慣れるまでには相当苦労した。ジムトレーニングは体幹を鍛え、ぶれない体と自転車型マシンで下半身を鍛えることとした。


(写真提供:髙橋良祐客員研究員)

4か月を過ぎトレッドミル(室内用ランニングマシン)で走り始めたが、5分で飽きがきて15分でいろんな箇所が痛んだ。時間が経つにつれ、痛みが体の色々なところを動くことも実感した。やがて30分も走れたことに満足している自分がそこにいた。30分から45分、60分と少しずつ走る時間と距離を増やすうちに、頑張っている自分の姿を「なかなかやるじゃないか」と素直に認める自分を感じた。充実感と自信の持つ力は恐ろしいもので、たとえそれが小さなものでも、還暦を過ぎた人間の意識さえ変えてしまうのである。その証拠に、私はあれほど嫌いだったランニングをするためにシューズとトレーニングウェアーを持参し、出張先の奈良公園で早朝ランニング始めたのだ。次の日はラジオ体操を行っている団体を横目に見ながら広島平和公園を走る自分がいた。他の方から見たら些細な挑戦ではあるが、それでも自分が変われたことは嬉しいものである。

変化といえば、最近私の大のお気に入りの力士である稀勢の里関が、この正月場所で念願の初優勝を遂げ、横綱昇進を手に入れた。19年ぶりの日本生まれの横綱誕生である。それまで稀勢の里関の、強く豪快だが脆さもある相撲に多くの相撲ファンがハラハラドキドキし、千秋楽には何度もガッカリさせられてきた。この時期の稀勢の里関や師匠、大関を支えてこられたご家族や関係者は、本当に言葉にできないくらい大変だったことだろう。

しかし、稀勢の里関は挑戦を諦めず、先代師匠の鳴門親方(横綱隆の里)の教えを守り、努力を重ね、力士の最高峰である横綱の座をつかみ取った。彼のインタビューなどを見ても、これからさらに横綱稀勢の里の大輪が咲き誇るような気がする。一朝一夕ではなかった相撲道への挑戦を続けてこられた精神力こそ、稀 (まれ) な勢(いきおい)のある力士「稀勢の里」の真骨頂なのだろう。

「希望」や「未来」「目標」「挑戦」が真に似合うのは子ども達だ。稀勢の里関同様、子ども達には目標に向かって全力で「挑戦」してほしい。そして、自分の努力や頑張りに対して自信を持ってもらいたい。自信を持つことは最も大切で、よりよく生きる力に直結すると考えている。子どもたちと同様、私もささやかな目標を決めて挑戦しよう。

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高橋 良祐(たかはし りょうすけ) 1953年栃木県生まれ 学研特別顧問、学研教育総合研究所客員研究員
高橋 良祐

東京学芸大学教育学部数学科卒業後、小学校教諭に。東村山市立秋津東小学校、世田谷区立東大原小学校を経て、町田市立鶴川第三小学校の教頭に。その後、中央区教育委員会・指導主事、港区教育委員会・指導室長、東村山市立化成小学校校長職を経て、港区教育委員会の教育長に就任。教職経験を生かし、ICTや英語教育、国際学級など、教育改革に取り組む。2012年10月に退職。

2013年4月から、学研ホールディングスの特別顧問、学研教育総合研究所の客員研究員に就任。豊富な経験から適切なアドバイスなどを発信している。

おもな著書(共著):
「新しい授業算数Q&A」(日本書籍)
「個人差に応じる算数指導」(東洋館出版)

写真撮影:清水紘子 (イメージ写真を除く)

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