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河村建夫コラム

~河村建夫 元文部科学大臣が語る教育観~ 言語力が時代をひらく 〜読書を通して人づくり・時代づくりを〜 河村建夫

先回は読書活動推進のための施策を中心に伺いました。最終回の今回は、今後の出版業の役割、読書が培う感性などについてお話ししていただきます。

第3回  読書力で時代の転換点を生き抜こう

──かつては3兆円産業と言われた出版業も今や1兆8千億円規模と衰退の一途を辿っていますが、このような時代に本や読書はどう生き残っていくのでしょう?
河村議員確かに、本も新聞もiPadのようなタブレットひとつで読める時代になりました。年に1000軒規模の書店が消え、特に地方では書店で本を買うことができなくなりつつある状況だと聞くと、この先、本というものがどうなるのかと思ってしまいます。その一方で、違反ダウンロードや「自炊(書籍をスキャンしてデジタルデータに変換すること)」など、著作権にまつわる問題も起きています。
紙の本で育った世代としては、どんな時代になっても書物はなくならないだろうと信じていますが、大切なのは、この時代に求められる書物や読み方というものがあるだろうということでしょう。よく言われるように書物の特性は、情報学でいうストックの情報であり、繰り返して読める・保存ができる・図鑑のように色彩が再現できるといったところにあります。それに対して、一過性なフローの情報であるインターネットやテレビと比較すると、大きな違いです。出版業界はこうした書物の特性を踏まえ、かつ時代の要請に応える図書を世に出していくという努力が必要でしょう。併せて、読むべき本や残すべき本を次世代の子どもたちに示せる大人や教師が、ますます求められると思います。
──「指導者は目利きでなければいけない」と先回のお話で伺いました。目利きであるために特に大事なのは、どんな要素でしょうか?
河村議員ひと言で言えば、感性を伴うということです。郷里山口の童謡詩人、金子みすゞの言葉「みんなちがって みんないい」は随分有名になりましたが、あの、すべてを受け止める感性ですね。また、「大漁」という詩に見られる、大漁で人間は喜ぶが海中では弔いが行われているという発想、つまり他を思いやる感性です。優れた先人たちは勉強しながら読書をしながら、この感性を身につけていったと思われます。今の時代にもこの感性で相手の気持ちを捉えること、徹底的に考えること、答えに導く力が必要で、本を読むことを通してそれを培ってほしいのです。
指導者の養成においても、感性を伴った読書力の重視という視点を強化してもらいたいところです。その意味では暗記を重視した答えありきの教育制度を基礎とした現行の教員研修などは見直しが必要かもしれません。
金子みすゞ「私と小鳥と鈴と」より
──時代の転換点ともいえる現在、教育における読書は今後どのような広がりをもっていくとお考えでしょうか?
河村議員超党派の国会議員で構成される「子どもの未来を考える議員連盟」では、日中韓の子どもたちが各国の童話を通して読書の楽しみを共有したり、テーマに基づき絵本を創作したりと、様々な交流プランを実践・提案しています。3か国持ち回り開催をしており、昨年は中国で、第10回目となる今年は韓国で開催します。中国も韓国も教育・読書の取組においては大変熱心で成果も上げているので、わが国には参考にも励みにもなりますね。日本も大いにがんばらなければなりません。
また、PISAで優秀な成績を収めたフィンランドでは、各家庭の蔵書が500冊を超える とも聞きました。一戸当たりの敷地の広さなど考慮すれば単純に比較はできませんが、教育における読書の背景など見習う点が多そうです。
先回までにお話ししてきたように、読書力は思考力であること、読書活動を通して生きる力が育めることを改めて確認しあいながら、日本でも、一人ひとりが愛読書を持てるような、本が宝になるような環境を作っていければと思います。そのために今後も読書活動推進に向けた働きかけをいろいろな方面へ強めていくつもりです。民間の出版業のみなさんにも次世代を担う子どもたちのために更なる奮闘努力をお願いしたいと考えています。本の力を信じつつ、読書力・言語力によって子どもも大人もこの時代を生き抜いていきたいものです。
──個人にとっての読書のあり方だけでなく、出版業界全体に対しての読書推進のあり方についてまで、広く示唆に富んだお話をありがとうございました。
 
<完>

(インタビュアー:安威誠所長/ライター:車尾薫)

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河村 建夫(かわむら・たけお) 1942年(昭和17年)、山口県萩市生まれ。衆議院議員。
鈴木 寛

田中龍夫元文相に私淑し、衆議院初当選以来文教畑に打ち込む、教育改革には一家言を持つ。自由民主党内有数の文教通。山口県議会議員に連続四期当選し、草の根民主主義の啓発に努めたことから民情に通じる。派手なパフォーマンスは得意ではないが、明るく誠実な人柄でいささかも偉ぶるところがなく、各界各層に幅広い人脈を誇る。議員立法に情熱を燃やし、政策の立案、研究で寝食を忘れることもしばしば。その面では関係省庁の官僚からも一目置かれる存在。小泉内閣では文部科学大臣、麻生内閣では内閣官房長官を歴任。

学校図書館活性化協議会会長。NPO法人日本教育再興連盟会長理事。全日本私立幼稚園PTA連合会会長。

「読書」関連で法案提出者として手掛けられた議員立法
  「子供の読書活動の推進に関する法」、「文字・活字文化振興法」

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