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研究分野:発達支援研究分野

発達障がいの理解とサポート 「気になる子」のことをもっと知ろう! 幼稚園教諭 特別支援教育士 守 巧

第9回 “就学に向けて”

2010年4月14日

 年度末は、一年間一緒に過ごしてきた子どもたちの成長をうれしく思ったり、進級や就学で離れてしまう寂しさを感じたりするとともに、「あと少しで就学なのに、まだ○○するのに時間がかかってしまう」「A君がこのまま年中組に上がって、ついていけるのだろうか」と、焦りや心配を抱えてしまう時期でもあります。
 特に成長・発達が緩やかな、発達障がいがある子の場合は「自分の保育は良かったのだろうか」「今までのかかわりをしっかり小学校に伝えなければ……」というように、保育者の悩みはつきないのではないでしょうか。そこで今回は、発達障がいがある子の就学に向けてどのようなことを押さえ、保護者と話し合っていくとよいのかを考えていきます。

就学前の個人面談

 年度末、年長組の担任は保護者と就学を意識した面談を行い、子どもの成長した姿や楽しくほほえましい言動を、具体的なエピソードを織り交ぜながら話をします。またその一方で、就学に向けて今の子どもの課題を保護者と共有するために、子どもの気になる行動について話さなくてはならない場合もあるでしょう。

 保護者に、子どもの課題について話をする際には、これまでの保護者との関係性や、保護者自身が子どもの姿をどのように捉えているのかを十分検討したうえで進めましょう。例えば、それまで保護者と子どもの気になる姿をなかなか共有できていなかった場合、最後の面談だからといって突然いろいろと列挙してしまうと、「いきなり問題行動を言われた」という不快感や不信感を与えてしまいます。慎重に言葉を選び、保護者の心情を十分に考慮しながら進めることが大事です。

 前述のことを踏まえ、保護者と就学先のことを検討する際は、具体的に支援の場の情報を提供します。“一方的に気になる姿を伝える場”ではなく、“保護者と一緒に、その子の今後を考える場”となるよう、保育者はまず基本的な情報を集めておく必要があります。

就学先の選択肢

 2006年に特別支援教育がスタートし、小学校の通常学級でも特別な支援を必要とする子どもも一緒に授業を受けられるように、という意識が少しずつ定着してきています。ただし、まだ様子を見ながらの段階であり、教師の考え方や力量によって、その実態にはばらつきがあるのが現状です。そのほかにもいくつか選択肢あるので、整理しておきましょう。

○通級指導教室

→情緒障がいや自閉症がある子、LD(学習障がい)がある子、ADHD(注意欠陥多動性障がい)がある子が通う教室。通常学級に在籍しながら週に数回通い、必要に応じておおむね週8時間以内で各教科の補充指導を受けることができる。地域によっては「リソースルーム」と呼ばれる。

○特別支援学級

→以前の特殊学級。盲・・養護学校の対象にまでは至らず、比較的軽度な障がいがある児童に対して教育を行うことを目的とする。今後、通級指導教室と特別支援学級が統合されて“特別支援教室”となり、発達障がいがある子も含め、それぞれの障がいの特性に応じた利用ができるようになる予定。

○特別支援学校

→以前の養護学校。養護学校での5種類の障がい種別(視覚障がい・聴覚障がい・知的障がい・肢体不自由・病弱)が対象とされていたが、今後は地域の特別支援教育のセンター的機能も求められる。

就学に不安のある保護者への対応

 年度末になると、「就学について不安があるので面談をさせてほしい」と、保護者のほうから声をかけられることも多いのではないでしょうか。このような場合、保護者はなんとなく自分の子どもの「つまずきや課題」に気付きつつあり、学校生活をスムーズに過ごせるか不安をもっていることが多いです。

 自分の子に満足がいく教育を受けさせたいと思うのは、どの保護者も同じです。しかし、発達障がいがある子どもの場合、個の配慮を必要とする場面が出てくることもあるでしょう。そのひとつひとつをフォローするには、人材確保も必要ですし、集団というクラス運営のなかで、すべてを実現するのが難しいこともあります。保育者は、保護者が抱いている不安について十分に聞きとり、実現可能な支援の範囲とその限界について、現実的な話をすることも必要です。

 小学校の通常学級の目標には、

  1. 各教科の学習をはじめ、通常の教育課程に沿って基礎学力を身につける
  2. 年齢相応の社会性の発達を促し、人格形成を促す

といった2点が、新学習指導要領の大きな柱として挙げられています。この目標も説明したうえで、その子が生き生きと学習できる場はどこなのか、集団のなかでその子らしく過ごすためには具体的にどうしたら良いのかを、保護者の希望も聞きながら、話し合います。小学校生活のイメージを膨らませつつ、現在の子どもの様子と照らし合わせながら進めていくと良いでしょう。

 あわせて、上記で述べたような就学先の選択肢をいくつか説明し、通級指導教室や特別支援学級のメリットも伝えると良いと思います。例えば「特別支援学級は少人数であり、個々の児童の発達や得意・不得意に沿った“個別の指導計画”を作成して、教育を行っている」「現在、通常学級との交流や共同学習を、個に応じて進めるよう求められてきている」といった情報を伝えます。地域の小学校や特別支援学校の状況について、担当の教師の話を聞いておくなど、情報収集を積極的に行っておくとよいでしょう。

“子どもや保護者に寄り添う”とは?

 保護者からの相談に対し、「(根拠がないのに)通常学級でも心配ありませんよ」「(一方的に)通常クラスではついていけないと思います」など、就学先を決定するにあたって、保育者が強い影響を与える言い方をしてしまうことがあるようです。以前は私も、「園では友達とトラブルが絶えず、活動も集中が困難な状況です。学校に上がると友達関係だけでなく、学力の問題が出てくるかもしれません。○○君のことを考えると通常クラスは無理そうです」と伝えていたことがありました。当時の私は、“子どものため”という気持ちが強すぎて、保護者の心情まで配慮が行き届いていなかったのです。確かに、就学してからの難しい状況が予想される子どももいます。しかし、その姿のすり合わせに腐心し、結果として“説得”という一方的な姿勢になってしまっていないでしょうか。

これから子どもが直面するであろう学校生活でのつまずきや課題については、「必要ならば園での様子を小学校に伝えます」「相談があれば、いつでも園に来てください」など、“保護者が困った時には力強いサポーターになる”というメッセージを伝えましょう。

就学先は最終的に、保護者が決定することです。子どもの障がいを受け止められない保護者もいれば、就学について家族内で意見の相違が出てくることもあります。その子が安心して学習できる環境を選べるように保護者に必要な情報を伝え、不安に寄り添い、これまで子どもを見てきた保育者として一緒に考えていくという姿勢が大切なのだと思います。

小学校への申し送り

 就学に向けて、園で配慮してきたことを小学校に伝えるのも、保育者の大事な役目です。保護者の了解を得て、子どもが小学校という新しい環境にスムーズになじんでいけるよう、成長や配慮点を伝えましょう。可能であれば、保護者が子どもとどう向き合い、現状を捉えているか、ということも伝えておくと良いでしょう。情報の引き継ぎは、子どものこれからの育ちを保障するために重要となります。

 引き継ぐ際には、学校側に伝えたいことを前もって絞っておきます。互いに時間がない時期の引き継ぎなので、効率よく進めることが大事です。私は事前に“伝えたいこと事柄”を2~3項目に絞って書いておき、さらにその下に、“時間があれば伝えたい事柄”を順に書いておきます。上から順番に引き継いでいくというわけです。また引き継ぎの際に出た話を、しっかり書いて記録しておくことも必要でしょう。

 また、「A君は○○と声をかけると、理解しやすいようです」「Bちゃんは○○な状況だと不安や緊張が強くなり、混乱してしまいます」など、保育者がその子に接してきてわかったことや、その際に配慮した点を具体的に伝えます。その子の良いところや興味・関心、得意なところなども必ず伝えておきましょう。保護者からも“小学校に伝えておきたいこと”を聞き、まとめておくと良いと思います。可能ならば、就学先の校長先生や教員と話し合う機会を設定しましょう。

 引き継ぎについては、国の施策として「幼稚園幼児指導要録」「保育所児童保育要録」を小学校に申し送りすることになっています。地域によってさまざまですが、発達障がいがある子は、前述の要録とは別に「就学支援シート」を作成することが勧められるようになってきています。このシートの名称は地域によって異なりますが、保育をしていく上で特に配慮を必要とした面について記述します。また、障がいの有無に関わらず、保護者が希望すれば、引き継いでもらいたいことを記入することも可能です。要録とシートを併用しながら学校は指導方法を練り、サポートしていきますので、保護者と相談したうえで、このシートを上手に活用したいものです。

今月の元気モリモリ先生のQ&A

Q:年長組のA君は場面があり、ほとんど声を聞いたことがありません。しかし、一番仲が良い友達には、小声で話をしています。先日、一斉活動中に「あのね…」と話し出したので、子どもたちが驚き、褒めたのですが、本人も戸惑った表情を浮かべていました。その後、さらに緘黙が強くなったように思います。どうしてでしょう?

A:A君は特定の友達とは小声で話せるということなので、そこまで重度ではないと推測できます。とはいえ、「みんなの前で自分を表現し、評価される」ということに強い抵抗感や不安感があるようです。

 A君は「ついうっかりしゃべってしまった」ことを、強く後悔したのだと思います。もしかしたら、その場から走って出ていきたい衝動にかられていたかもしれません。そのくらい緘黙へのこだわりというのは強く、“うっかりしゃべってしまった=間違った”という気持ちが背景にあります。これに加えて、“しゃべったことを褒めた”ということは、“しゃべらないこと=いけないこと”というメッセージにもなってしまい、A君にとって、否定されたような気持ちになったのだと思います。

 こういう場合、保育者は“喜び” や“驚き”を心に抱きつつ、大きな反応を示さないでさりげなく相づちを打ちましょう。周囲の子どもたちには難しいですが、せめて担任として、事前にこの“緊急事態”を想像しておく必要があるでしょう。このでき事は記録をしておき、A君に対しては“人前で話をした”という行為をなかったことにします。また、家庭と連携をとり、ゆったりと落ち着いた生活ができるように睡眠を十分とる、話を引き出すようなかかわりを増やす、興味や関心があるものを見つけるなど、協力をしながら、焦らずに長い目でかかわっていきましょう。

参考引用文献
  • 『こんなとき、どうする?発達障害のある子への支援』監修者:内山登紀夫 ミネルヴァ書房
  • 『気になる子の保育と就学支援』編著者:無藤隆他 東洋館出版社
  • 『日本LD学会LD・ADHD等関連用語集 第2版』 編集者:日本LD学会 日本文化科学社

 

第10回の事例は、"『ボーっとしていることが多く、活動にのれないAちゃん』"です。

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