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研究分野:発達支援研究分野

発達障がいの理解とサポート 「気になる子」のことをもっと知ろう! 幼稚園教諭 特別支援教育士 守 巧

第8回 “クラスの子どもたちへの対応と学級運営(2)”

2010年3月8日

 前回は第1弾として、“学級運営にあたっての保育者の心構えと、周囲の子どもたちへの対応”について取り上げました。今回は前回からの流れをくみつつ、主に“クラスで育てたいルールやマナー”について述べていきたいと思います。

学級づくり=集団づくり

 保育者には、子どもたちが互いにかかわり合い、ルールに基づいて園生活を送れるよう、クラスを“集団”として運営していくことが求められます。そのために意識しなければならないことはなんでしょうか? そのヒントは“社会”にあるように思います。社会には人々が気持よく生活を送れるよう、法律や道路標識などのルールがあります。これは良好な人間関係を築いていくことが可能な人間社会でのいわば“知恵”であり、みんながより良く生活していくための礎となるものです。

 クラス運営が困難になる理由の1つに、最低限のルールやマナーが浸透していないことが挙げられます。それらを子どもたちにわかりやすく伝えるには、どうしたらよいでしょうか? 例えば、活動への集中力が弱まっているクラスの場合は、全体の目標として“名前を呼ばれたら返事をする”“体操座りは背中をピンとしよう”などの約束を朝の会で確認するのも1つの方法です。また、けんかなどのトラブルが頻発しているクラスであれば、“友達から「やめて」と言われたらやめる”と紙に書いて、みんなで確認するというのはどうでしょう。年長児くらいになったら“友達から「やめて」と言われたらやめる”→“友達が嫌がることはやめよう”というように、目標の幅を徐々に広げていくとよいでしょう。

 ただし、発達障がいのある子どもはルールやマナーを覚えておくことや、実際の場面に照らし合わせることが苦手です。そういう場合は、登園してきたらまず保育者と確認するなど、個別に伝える配慮も必要です。字が読める子ならば、紙に書いた約束を実際に言う、というのも効果があります。難しければ、保育者が声に出して読み、「大丈夫かな? 守れるかな?」と確認しましょう。加えて、実際にルールを守らなければならない場面に直面したら「○○君、約束はなんだっけ?」と思い出すきっかけとなる声かけをしたり、「これが『やめて』っていうことだよ」と、今直面していることと約束を結びつけるようなかかわりをしましょう。

“友達の話を聴く”ことを伝える

 活力があり、笑顔が絶えないクラスに共通していることの1つに、子どもたちに“聴く姿勢”が定着しているということがあります。この“聴く”マナーが必要なのは、なぜでしょう?

 子どもの情緒は、家庭や園生活を通して“自分の思い(快・不快な気持ち)を聴いてもらえた、もしくは受け止め、理解してもらえた”という対話を多く経験することによって、安定していきます。また友達とのつながりの中で安心感や居心地の良さを体感し、友達を受け入れる気持ちや自分を大切に思う気持ちなどを実感しながら、さらに友達と学び合う、協力し合うなどの充実した友達関係を、意欲的に構築していくようになります。

 このように保育者と子ども、子どもたち同士の関係で作り出された園という社会において、自分の気持ちや考えを一方的に“言う” “聞く”のではなくて、互いの嫌な気持ちや怒り、不安な気持ちを、受容的・共感的に聴き合うような“感情のキャッチボール”の場を作っていくのが、保育者の役割です。例えば、けんかの場面では保育者が一方的に解決するのはなく、十分に双方の話を引き出したり、正論のみで終わってしまう話し合いではなく“その子ならでは!”という発言が飛び交う場を設定したりします。そういった“聴く”マナーを、日常の体験を通して伝えていきたいですね。

 発達障がいのある子どもは人の話を聴くのが苦手な場合が多いですが、その子の理解に合わせて、少しずつでも伝えていきたいと思います。まず社会性を身につけるという意味でも、子どもに対話の基本的なルールを知らせたほうがよいと思います。『相手のほうに体を向ける(自閉傾向がある子は、人の目を見て話をすることが苦手です)』『人が嫌がる言葉や言われてうれしい言葉を教える』など、その子の苦手な部分を見極め、無理のない範囲で進めていきましょう。

マナーの手本となる保育者

 前回も述べましたが、子どもたちがマナーを身につけていくうえで、保育者の振る舞いがモデルとなります。

 以前年少クラスの担任をしていたとき、とてもゆっくりと話すA君がいました。「せんせい~、あのね~」と笑顔いっぱいで話してくれます。聴いているこちらも思わず笑顔になり、その場にいるだれもが温かい気持ちになる雰囲気のある子でした。しかし、保育をしていくなかでA君について気になることが出てきました。それは“嫌な気持ちを一切表に出さない(言わない)”ことでした。不快な感情を表出しないA君に焦り始めていた私は、友達とトラブルになるA君に対し、「自分の気持ちをちゃんと言わないと、相手に伝わらないよ」と厳しい口調で言っていたように思います。そんな私の態度がだんだんとクラスの子どもたちにもうつっていき、A君の周囲を和ませる笑顔も減っていってしまいました。A君とのコミュニケーションにおいて、私の言動が子どもたちに良くない影響を与えていたことを恥かしく思いました。その後A君と話をする時には、緊張感を過剰に与えないように3回に1回視線を意図的に外したり、「なるほど~」と言いながらうなずいたり、可能な限りひざにA君を乗せて話をするといったスキンシップをとるなど、改めていったことを覚えています。

 ここで学んだのは日々の保育の中で、保育者が“傾聴と共感”を基本にしたコミュニケーションを子どもたちと図ることが子どもたちの“モデル”となるということ、そして何よりも“聴く”ことをコミュニケーションの出発地点とする必要があるということです。保育者自らが常に子どもひとりひとりの存在を大事にし、傾聴の姿勢でコミュニケーションをとることは、子どもたちのマナーやルールをはぐくむことにつながります。

 また、実際の会話の中で子どもの“聴く”姿勢に注目し、褒めていくことも大切だと思います。「いいね、今お友達が話し終わってから自分の気持ちを伝えたね」「Bちゃんがうなずいて聴いてくれたから、気持ちよく話ができたよ」などと、具体的に良かったところを積極的に子どもに伝えていきましょう。

今月の元気モリモリ先生のQ&A

Q:年長組のA君は、席を立ったりふざけたりする友達に対して強く注意したり、時にはたたいたりすることがあります。このようなことが続き、だんだんと集団での鬼ごっこやドッヂボールなどのあそびに、参加しなくなってきてしまいました。A君がみんなと楽しくあそべるようにするには、どのような支援が必要なのでしょうか。

A:さまざまな要因があると思いますが、最初に“A君が集団であそぶときに、何がつまずきとなっているのか”を検討する必要があります。A君の場合ポイントとなっているのは、“社会性”と“言語面”だと思います。

 まず“社会性”ですが、年中・年長児になると、場面ごとのルールだけではなく、“お友達が困っていたら助ける”“友達に迷惑になることはやめよう”といった広い範囲のルールも理解できるようになり、友達に対して道徳的な視点から注意ができるようになってきます。Qで挙がった姿から、A君はルールや約束を十分把握していることがわかりますが、そのルールに対してやや過剰に忠実であるために、集団にうまく溶け込めていない様子が見えてきます。次に“言語”の視点から考えると、この時期の子どもは言葉による表現も豊かになってきて、ふざけている友達に言葉で注意したり、先生に訴えるという方法をとることができます。友達に手を出してしまうA君は言葉が思うように出ず、手が出てしまっていることから、言語の発達に何かしらの課題があるのかもしれません。

 これらの分析から、A君はルールの理解力があり、とても規範意識が高い面がある一方、そのルールへのこだわりや言語面での支援が必要だと考えられます。

言語の面では、まずA君の理解力がどのような段階にあるかを確認してみましょう。

友達に言葉で伝えることができずにたたいてしまうという姿から、うまく言葉を選びとることができていないのかもしれません。言葉を関連付けて話をすることが苦手な子どもがいます。A君の場合も、知っている単語は多いかもしれませんが、それらを状況や場面に応じて関連付けて取り出すことができていないのかもしれません。まずは普段のA君との会話で、かみ合わない様子がないかどうかを確認してみましょう。例えば「昨日だれとおふろに入ったの?」という質問に「大きかった」と答えたり、はさみを使っているBちゃんに「今はさみを使っているから待ってて」と言われたのに、「Bちゃんがはさみを貸してくれない」と訴えてきたり、というようにズレが見られる場合があるかもしれません。保育者はそういったA君の課題を把握し、そのような発言が見られたときは、文脈や場に適した受け答えを少しずつ伝えていきましょう。

また、ルールにこだわるあまりに、自分が入るとなんとなくトラブルになってしまうということをA君自身が気付き、あそびを避けているということも考えられます。その場合は、保育者があそびが始まる前にルールを一緒に確認したり、保育者も遊びに入り、「ルールは先生が決めます」とA君に宣言してから始めると良いでしょう。またゲームのなかで、A君に「今は○○だから□□なんだよ」と要所要所で実況中継をし、状況とルールを結びつけて知らせるとさらに良いでしょう。そして一番大切なことは、A君が最初から最後まで楽しくあそべたという経験が積めるようにすることではないでしょうか。

 私も以前、A君のような子どもを受け持ったことがあります。その子は私に認めてもらいたい、褒めてもらいたいという気持ちから、集団を乱す子どもに対して過剰に反応し、注意をしていました。「A君、注意してくれてありがとう」と伝えながらも、自由あそびのときに一緒にあそぶ時間を確保するようにしたところ、徐々にその姿が減少していきました。このように、一対一でその子に注目する時間を持つといった対応も考慮に入れながら、検討していくと良いかもしれません。

参考引用文献
  • 『ここがポイント 学級担任の特別支援教育』 編著:河村茂雄 図書文化社
  • 『Q-Uによる学級経営スーパーバイズ・ガイド』 編著:河村茂雄・藤村一夫・粕谷貴志・武蔵由佳  図書文化社
  • 『偏見の心理』著:G・W・オルポート 培風館

 

第9回のテーマは、就学に向けての準備です。

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