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研究分野:発達支援研究分野

発達障がいの理解とサポート 「気になる子」のことをもっと知ろう! 幼稚園教諭 特別支援教育士 守 巧

第7回 “クラスの子どもたちへの対応と学級運営(1)”

2010年1月22日

 担任として、集団としての機能をもたせつつ、障がいのある子もいる就学前のクラスを運営していくには、さまざまな難しさがあると思います。

 そこでこれから2回にわたって、“クラスの子どもたちへの対応と学級運営”について述べていきます。前半は、学級運営にあたっての保育者の心構えと、周囲の子どもたちへの対応について取り上げます。

偏った見方を避ける

 例えば発達障がいなど発達の気になる子どもは、周囲の子どもたちと同じペースで活動を進めることが難しかったり、なかなかその場にいることができなかったりして、集団活動にうまく参加できないことがあります。そのことが周囲の子どもたちに何かしら影響し、クラス全体がどこか落ち着かない雰囲気になってけんかが始まったり、いつもはスムーズにできる子が集中できなくなったりということもあるでしょう。そんなとき特に若い保育者は、自分の保育に自信がもてなくなり、不安を感じると思います。また、そういったクラスの状況についてほかの職員や保護者から指摘されたら、「加配が付いてくれたら、もっとスムーズに進むのに……」「自分のクラスはあの子1人だけではない」などと思ってしまうかもしれません。

 しかし見方を変えると、前に述べた子どもの行動は子どものある“1面”でしかありません。以前、私のクラスに自閉傾向があり、約束を守らない友達に強く注意をするA君がいました。A君は強い調子で細かく注意することから友達とたびたび衝突してしまい、私もどのように対応してよいのか悩んでいました。そんなある日、A君が体調を崩して欠席しました。すると、“カバンをロッカーにかける”“トイレの後に手を洗う”など、クラスに定着していたと思っていた約束を守らない子どもが出てきました。困惑していると、ある子どもが「A君がいないからみんな勝手なことをするのかな……」と言ったのです。A君に注意をされるから守っていた子どもたちがいたという事実を教えられたとともに、A君の影響力をクラスにうまくなじませられなかった自分を恥ずかしく思ったことを覚えています。ひとりの子どものある面だけを見て問題ととらえるのではなく、クラスのなかの一員である子どもとして、さまざまな視点から子どもを把握することの必要性を気づかせてくれた出来事でした。

周囲の子どもたちへの対応
人的環境となる保育者の振る舞い

 “もの事のとらえ方”は幼児期のさまざまな生活体験から形成されていきます。そこには“自分を大切にする気持ち”や“他者を受け入れる気持ち”も含まれ、幼児期の体験が大きく影響を及ぼします。このころの子どもは、まだ大人のようにある程度固まった価値観をもっているわけではないので、スポンジが水を吸収するようにいろいろなことを身に付けていきます。そして、そのように幼児期に積み重ねてきたことが、その後の人生に大きく影響を及ぼすことが多く見られます。例えば、小さいころから母親に「残さず食べるんだよ」と言われて育つと、大きくなっても出された物はなるべく残さないで食べるといった行動が自然に身に付いているというようなことです。
つまり、保育者の子どもとのかかわり方やクラス集団との向き合い方も、子どもたちのその後の“もの事のとらえ方”に影響するということになります。保育者は子どもの育ちにとっての人的環境となるのです。発達の気になる子どもが活動中に立ち歩き、周囲の子どもたちにもそれが波及してクラス全体が落ち着かなくなってしまったとします。そんなとき、どんなふうに対応しますか?
そこで、できていないことを子どもに指摘し続けるような声がけをしていると、クラスの子どもたちはどんなふうにそれをとらえるでしょうか。いつしか子どもたちの間でも、同じように互いのできない部分を指摘し合う関係性ができあがってしまかもしれません。一方例えば集中して活動に取り組めるような目標を、障がいがある子どもだけではなく、クラス全体での目標としてみんなで確認し、全体で頑張ろうという雰囲気を作ると、子どもたちは互いに認め合い、励まし上手になっていくでしょう。
保育者が障がいがある子どもを含め、ひとりひとりの子どもを大事に保育をしている姿から、子どもたちは多くのことを学びます。日々の保育のなかで、子どもに無理な要求をしていないか、気になる子どもだけでなくクラスの子どもたちが保育者を求めているときに応えているか、活動の手順を子どもが自主的に行えるように工夫をしているかなどを振り返ることが必要だと思います。そのような反省を通して、クラス全員の育ちを保障することにつながっていくのではないでしょうか。
また、子どもたちは、保育者の表情や言葉、振る舞いをよく見ています。そしてそれがクラスの雰囲気に大きく影響します。そのことが、子どもたちのその後の価値観形成につながっていくことを自覚して保育に取り組んでいきたいと思います。

周囲の子どもたちひとりひとりに配慮を

 以前私のクラスに障がいがある子どもがいて、一緒に朝の準備や活動内容の確認をするなど個別に対応をしていました。すると、それをそばで見ていたB君が、何度もさまざまな質問を私に投げかけてきました。私は単純に「気になる・興味がある」がゆえの言動なのかと思っていました。しかしある日「C君はずるいな~。いつも先生にやってもらって」と言われました。
そのとき私は、自分が障がいのある子どもの対応に必死になりすぎて、周囲の子どもたちのことをちゃんと見れていなかったことに気がつきました。B君は私の必死さを目の当たりにして、苦手なことも1人でやろうとしていたのです。「僕のことも手伝って!」が言えない状況を作ってしまっていたのですね。サインは以前から出ていたのですがそれをキャッチできなかった自分が情けなくなりました。障がいのある子どもだけでなく、どの子どもも配慮を必要としている、ということを再認識した出来事でした。

“苦手”を言い合えるクラス作りを

 クラスの中で“得意なことや苦手なこと”や“できることとできないこと”が言い合える雰囲気を作ることも大切です。私は子どもたちに「守先生は料理とピアノが苦手なんだよ。頑張っているんだけど上手にできない。けど『やらない!』ではなくて苦手だけどやることが大切だと思うよ」と、自分から苦手なことを子どもたちに伝えています。このように折にふれて話していくと、子どものほうから「先生は料理とピアノが苦手だけど頑張っているんだよね。私はニンジン嫌いだけど食べたよ」などと伝えてくるようになったのです。
毎日の保育の中で“苦手”を受け入れられるようなやり取りが存在すると、周囲の子どものこともそのように受け止められるような下地ができていきます。その上で、障がいがある子どもの苦手なことや、「今○○君は勉強中」「練習中」「○○のところはゆっくり大きくなっていく」と頑張っている様子をクラスの子どもたちに伝えていきます。また、その子の好きなものや得意なことも伝えましょう。以前障がいのある子どもについて、このようなことをクラスの子どもに伝えたら、こちらが拍子抜けするぐらい素直に「ふ~んそうなんだ。わかった!」と返してくれました。大人が思う以上に、子どもは柔軟なのだと痛感しました。
「障がいがあるからみんなと違う」ではなく「みんながひとりひとり違うのと同じで、○○君も違う」と話します。このことが理解できると、周囲の子どもはその子なりに苦手なこともある友達としてかかわろうとします。幼児期は、人とかかわる上での基本的な要素を学習する時期です。この時期に障がいがある子どもと接することは、クラスの子どもたちにとっても大きな経験になります。障がいの有無に関わらず、「人はひとりひとり違う」ということ、「だから互いに支え合っていく」ということを肌で感じられるような環境を、わたしたち保育者は整えていく必要があるのですね。

今月の元気モリモリ先生のQ&A

Q:1年長児のD君は人一倍負けず嫌いで、友達とゲームをしていても負けそうになると「つまらない!」と言って途中でやめたり、あそびの邪魔をしたりします。そのような行動から最近では「D君とあそびたくない」と友達から避けられるようになってしまいました。

A:年長児になると、みんなと最後まで楽しくルールのあるゲームができるようになり、しかもルールがより複雑になっていく時期です。そう考えるとD君が楽しくゲームができるようになるにはまだ時間がかかりそうです。ここではまずD君の気持ちに寄り添い、途中で投げ出したときに「負けそうで悔しかったんだよね」と、その場の感情に合った言葉を伝え、共感しましょう。
 その上で「ゲームを途中でやめても友達の邪魔はしない」というルールを決め、ゲームをする前にこのルールを確認してから参加するようにします。約束を交わして参加をしても、やはり最中でイライラしてくる場合も出てきます。そのときはタイミング見計らって「おっ、D君我慢しているね。えらい!」と声がけし、自分で気付けるようにすることが大切です。最後までルールが守れた時は大いに褒めましょう。また、怒ってしまったときには、その場では注意をしないで、そこから離れた場所で少し落ち着けるような時間をもちましょう。
 次に周囲の子どもたちへの対応です。友達には「D君は負けそうになると、どうしてもイライラしてしまう。このイライラを我慢するのが苦手。けど、今D君は楽しくゲームができるように先生と勉強している最中である」ことを伝え、D君の“イライラ”についてや、現在取り組んでいることを理解してもらいましょう。そして「苦手なことをそのままにしないで頑張って取り組むことの大切さ」を伝えます。D君がゲームに落ち着いて取り組めるまでは、可能な限り保育者も一緒にあそびに入ったほうが良いでしょう。
 最後に、自分に自信がもてないことが勝ち負けへのこだわりに影響を及ぼしている場合は、D君が人から認められる機会が少ないのかもしれません。得意なことを生かした役割をD君にお願いする――例えばスポーツが得意ならば、リレーでアンカーを任せる。几帳面であるならば、ホワイトボードを消す係を頼むといったかかわりもいいでしょう。また、保育中にD君を呼ぶ回数を増やして、クラスの一員であること、クラスの役に立っていることを感じられるようにサポートしていきましょう。

参考引用文献
  • 『わかってほしい!気になる子』監修:田中康雄 学研
  • 『保育 そこが知りたい!気になる子Q&A』編著:七木田敦 チャイルド本社
  • 『偏見の心理』著:G・W・オルポート 培風館

 

第8回のテーマは、クラスメイトへの対応と学級運営(2)です。

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