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研究分野:発達支援研究分野

発達障がいの理解とサポート 「気になる子」のことをもっと知ろう! 幼稚園教諭 特別支援教育士 守 巧

第3回 “日常生活でのケア”

2009年9月1日

 今月は家庭生活で保護者が子どもと接する際に気をつけることや、家庭での具体的な環境の工夫を取り上げていきます。ただし、ここでは保育者が保護者に伝える、というスタンスで述べていきたいと思います。

まず保護者に伝えたいこと

  「落ち着きがない」「こだわりがある」「思いつくままに行動する」という子どもだと、常に目が離せず、一緒にいる保護者は気が休まることがほとんどありません。社会生活に支障が出てきている場合、気になる行動そのものに目が向けられがちなのも仕方がないことだと思います。しかし、真に周囲が向き合わなければならないのは、本人が感じている『生きにくさや困り感※』ではないでしょうか。

  気になる行動ばかりに注目してしまうと、その子の内にある戸惑いや不安な気持ちがわからないままに叱責してしまう場面が増えていってしまいます。特に、行動上の課題がよく見られがちなADHD傾向の子どもには多いことかもしれません。そのような経験が積み重なることで、自分を好きという気持ちや自信を失っていってしまい、それが大きくなっていくにつれて、自分を大切にする気持ちが育ちにくい、意欲的に社会生活を送ることができない、といった“二次障がい”につながる恐れがあります。まず保護者に対して、「好ましくない行動」にだけ目を向けるのではなく、「なぜその行動が起こるのか」「そのとき子どもはどんな気持ちなのか」を念頭に置いて子どもと接することが大切、というメッセージを、折にふれ発信し続けましょう。

※「困り感」は学研の登録商標です。

家庭でできる環境の工夫

 私たち保育者の大きな目標の1つに、「子どもの自立」が挙げられると思います。そこで子どもの自立支援を考えたとき、「子どもにとってわかりやすい環境」が大きなポイントになります。園で実践したことを家庭でも応用できるよう、保護者と一緒に環境の工夫を考えていくことが望ましいでしょう。

 生活習慣や身辺の自立など、子どもに身に付けてほしいことがなかなかできないとつい保護者もイライラし、叱る回数が増え、ときには手をあげてしまうこともあるかもしれません。しかし、苦手な部分を補うように環境を工夫することで子どもが自分で気づき、主体的に生活をする場面が増えていきます。

 ここで役に立つのが園での実践です。実は園で行っている環境の工夫には、家庭でも応用できることがたくさんあります。保育者は子どもの苦手な部分を保護者と共有したうえで、普段園で行っていることを紹介してみましょう。そして、具体的に現在の家庭環境のなかにそれをどのような形として取り入れていくのかを検討します。このような流れで行った工夫により、子どもが1人でできることが増えていくと、保護者が子どもを褒める場面も増え、それが子どもにとって大きな自信につながっていきます。

具体的な環境の作り方

 では、環境の工夫の具体例を一部紹介します。保護者と一緒に考えながら、それぞれの家庭状況やその子の様子に応じて、アレンジしながら取り組んでいってください。

身辺自立
  • 衣服
    服の前後がわかりやすいように、服の後ろにお気に入りのマークや印を付けて、前後をわかりやすいようにする。ただし感覚が過敏な子は、タグが首に接している“チクチク感”が苦手なこともあるため、そういう場合はあらかじめ取っておく。

  • 靴の左右がわからない子どもには、靴をそろえたときに1つの「わかりやすいマークや絵」になるように、左右に半分ずつかいておく(例えばハート、星など)。
  • ハンカチやナプキン
    弁当箱を包むナプキンや園に持っていくハンカチは、「合わせるべ
    き角」を理解するのが苦手な子も。合わせる角に同じマークや色を付けると、どことどことを合わせるかの目印になる。
  • トイレ
    排泄の手順を理解しにくい子どもに対しては、便器に座ったときによく見える場所に、「トイレに入ってからの手順」を絵や写真も使ってはっておく。例えば、『「ズボンをさげる」→「すわる」→「トイレットペーパーを3かいまわす」→「おしりをふく」→「みずをながす」』など。また、例えば自閉傾向のある子どもには、トイレなどの閉そく的な空間や薄暗い雰囲気が怖かったり、水の流れる音が怖かったりすることがある。そのような場合は明るさを工夫してみたり、好きなキャラクターのポスターをはっておいたり、気に入っているおもちゃ(ミニカーなど)を飾っておくなどの工夫もあるといい。
身辺整理
  • おもちゃ
    必要な物を選び取るのが苦手な子の場合、仕切りが細かく分かれているおもちゃ箱だと選別しなければならないため、片付け自体に抵抗を感じる子がいる。その場合は「おもちゃは全てこの箱の中に入れる」という大きな箱を用意して、その中に収納するようにする。この習慣が身に付いてきたら、徐々に種類別に分けるようにするなど、発達や成長に伴なって環境設定を変化させていく。
  • 服や小物
    収納場所を記憶しておくことが苦手な子どもに対しては、入れる物の写真や絵をはっておき、視覚的にわかりやすいようにしておく。また保護者へのアドバイスとして、家庭での洗濯物も自分で片付けるように促すとよいことを伝える。多少収納時にぐちゃぐちゃになってしまうことがあるが「自分で片付けた」という実感を大切にする。なお、子どもによっては写真や絵よりも文字のほうがわかりやすい場合がある。ひとりひとりの発達段階や特性に応じて、より適した方法を考えると良い。

今月の元気モリモリ先生のQ&A

Q:子どものする行動が、わかっていなくてする行動なのか、“わがまま”なのかを判断するのがとても難しいのですが……。

A:確かに、保育現場ではよくこのような場面に遭遇します。とても難しいですね。見極めるには、日ごろの保育者とその子どもとのかかわり方や、保育者が把握しているその子に関する情報量が決め手なのではないでしょうか。
つまり、その子の今の発達段階を把握しておけば、仮に『わがまま』と受け止められる場面でも、その子の発達状況から見て納得がいく姿だと捉えることができるのではないでしょうか。
これらのことを踏まえたうえで、気になる行動の裏にある子どもの事情はどうなっているのでしょうか。主な子ども側の状況としては、

  1. どうすればよいかわからない
  2. わかってはいるが、思うようにできない
  3. できるのだがその場で求められている行動が理解できない

といったことが挙げられます。学びに困難さをもっている子どもの場合、わがままと見られる行動も、実際は実行する機能が備わっていなかったり、求められる行動を理解していなかったりすることが多いのです。発達のアンバランスさがある子は、私たちが思っている以上に“ここから教えるの……!?”といった段階にいることが多いのが実際です。“わがまま”と判断する前に、「いつ」「どのように」「どれくらい」行うのかなどを具体的にわかりやすく伝えてみましょう。そして、それを繰り返し体験できるようにすることが大切です。

参考引用文献
  • 『大丈夫!ADHDのすべてがわかる本』 著:榊原洋一 小学館
  • 『保育士のための気になる行動から読み解く子ども支援ガイド』 監修:藤原義博 学苑社
  • 『育てにくい子に悩む保護者サポートブック』 監修:高山恵子 学研

 

第4回のテーマは、"障がいのある子の保護者との関係作り"です。

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