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元教育長の子育て歳時記

第17回・春「好きなことはやり続けられる、やり切れる」 学研教育総合研究所 客員研究員 高橋良祐

厳しい寒さを乗り越え、一年の中で最も心の浮き立つ季節がやってきた。日本の春の代名詞ソメイヨシノと跳ねるように揺れ動く真新しいランドセルが新学期の到来を告げる。

今年の春(2018年度)から小学校の道徳が教科化された。これは、新学習指導要領の中でもかなり大きく変わった点の一つであり、注目を集めている。授業設計など悩ましい点も多いが、児童が級友たちとの対話を通して様々な道徳的価値観に触れ、人間性を高め成長してくれることを願っている。

今回の改訂は新教科道徳、英語が加えられた他、教科各教科の学習内容に大きな変更点はないが、学びの質や学び方、評価といった教育の本質的な在り方の変革を伴ったものとなっている。
今回のコラムでは、学習指導要領の中核を担う3つの柱に焦点を絞り、子どもたちに身に付けてほしい資質や能力をどう育成するか、指導と評価の在り方の面から考察してみたいと思う。

今回の学習指導要領改訂においては様々な変化が取りざたされているが、教科内容の加減や組み換えが主眼ではない。「思考力・判断力・表現力等を生かしてあらゆる問題を主体的・対話的に解決できる能力」の育成に重きが置かれている。また、ねらいとしては「日常の事象などの課題解決にあたって、自分の考えを根拠や理由を示しながら述べ、協働して深く学ぶ態度」や「学んだことをよりよい社会の実現やよりよい人生を築くために活かそうとする学びに向かう力や人間性の涵養」といったことが挙げられている。

こんなにも学びに対する主体性が重視されているのには理由がある。それは、我が国の子どもたちは、国際的な学力調査等では平均的に高い学力を示してはいるが、学ぶ態度つまり学習意欲が低いことが再三指摘されており、今の学びが将来役に立つと思うかとの質問に対しても芳しい結果は示されていないことである。この結果を簡単に読み解くと、日本の子どもたちは、勉強はできるが面白いとは感じていないことがわかる。また自ら進んで学ぼうとしたり、学んだ内容を生活に生かそうとしたりする主体的な態度が見られない、ということになるだろうか。

こうした状況がこの学習指導要領のねらい等に影響を与えている。一朝一夕に解決できるものではないのは当然だが、何としても解決していかねばならないだろう。それには、国民が「子育て」「教育」に対する根本的な意識改革の必要性を共有し、課題解決に向けた行動を起こさなければならないのではないであろうか。

ここで「子育て」「教育」の意識改革のヒントとなる方がいる。その人は、今、日本中を沸かせている将棋のプロ棋士 藤井聡太六段である。藤井六段の活躍ぶりをここで少々示すと、藤井君は史上最年少(14歳6ヶ月)でプロ棋士(四段)となり、その後デビュー戦以来負け無しの29連勝(新記録)を飾ったほか、2年目の15歳にして順位戦(C2級)を全勝で勝ち抜き五段に昇段した直後には、佐藤天彦名人や羽生善治竜王など棋界の頂点を極める方々を、朝日杯という全棋士参加のトーナメント戦で破り優勝し、六段昇段を史上最年少で達成した。このように次々と将棋界の最年少記録を達成したため、彼は様々なメディアで大きく報道された。

これらの快挙は、本人の類い希なる才能に加え師匠や家族の支えがあってのことだとは思うが、藤井君の幼少期の逸話が大変興味深い。将棋は藤井君の祖母や祖父から教えてもらったそうだ。お二人とも将棋はさほど強くなく、すぐ聡太少年が勝てるようになったのだそうだ。勝つことの楽しさと将棋の面白さにすっかりはまったのだろう。だが、ここまでの経験はだれしも一つ二つ持っているかもしれない。藤井君が凄いのは、両親や周りの大人達も驚くほどの集中力と、並外れた負けん気の持ち主であるということだろう。

そのすごさの(?)背景として一つ考えられるのは、藤井君がかつてモンテッソーリ教育を取り入れた幼稚園に在籍していたということである。モンテッソーリ教育は子供の主体性や自主性を最大限尊重する教育方針であったため、自分の好きな教具を選びその活動を徹底的に楽しんでいたようだ。自分で選んだ面白そうなことをやり続けるうちに、不思議だったり、難しかったり、簡単だったり、楽しかったり、悔しかったりと様々な心の動きを経験し、さらにそこに先生の適切な援助が加わることで、持続できる集中力や忍耐力が養われたのではないだろうか。こうしたことから、幼児期に、自分の好きなことを心が満腹になるまで打ち込める環境を整えることは、非常に大きな意味を持つように感じる。

今回の学習指導要領改訂をはじめとする教育改革は、グローバル化の進展や人工知能(AI)の飛躍的な進化などが背景にある。社会の加速度的な変化を受け止め、将来の予測が難しい社会の中でも、伝統や文化に立脚した広い視野を持ち、志高く未来を作っていくために必要な資質・能力を確実に育むことが目的である。そのためには「主体性」「自主性」「好きなこと」「面白さ」「喜び」「励まし」「褒める」をキーワードとして「育つ・学ぶ」環境づくりを日本中で進める必要があると考えている。

高校1年生となった藤井聡太六段は、新年度早くも2連勝。通算73勝12敗、勝率0.859と圧倒的な活躍だが、将棋盤に向かって戦っている姿はとても苦しげである。並外れた能力の影には途方もない努力があるのであろう。そのような姿をみると、やはり、将棋がとことん好きなのだろうなと思われる。がんばれ、藤井君。
(藤井君との表現は15歳とはいえプロ棋士には失礼かもしれないがお許し頂きたい)

※この記事は2018年4月時点のものです

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高橋 良祐(たかはし りょうすけ) 1953年栃木県生まれ 学研特別顧問、学研教育総合研究所客員研究員
高橋 良祐

東京学芸大学教育学部数学科卒業後、小学校教諭に。東村山市立秋津東小学校、世田谷区立東大原小学校を経て、町田市立鶴川第三小学校の教頭に。その後、中央区教育委員会・指導主事、港区教育委員会・指導室長、東村山市立化成小学校校長職を経て、港区教育委員会の教育長に就任。教職経験を生かし、ICTや英語教育、国際学級など、教育改革に取り組む。2012年10月に退職。

2013年4月から、学研ホールディングスの特別顧問、学研教育総合研究所の客員研究員に就任。豊富な経験から適切なアドバイスなどを発信している。

おもな著書(共著):
「新しい授業算数Q&A」(日本書籍)
「個人差に応じる算数指導」(東洋館出版)

写真撮影:清水紘子 (イメージ写真を除く)