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研究分野:脳力開発研究分野

脳研の研究成果:認知症予防プログラムの開発と実践

脳力開発研究室の業務の大きな柱に「認知症予防プログラムの開発と実践」があげられます。数年前から行ってきた「高齢者の認知症予防プログラム」=「学研:脳元気タイム」の開発と実践の概略をご報告します。

1. なぜ、高齢者の認知症予防に「学研脳元気タイム」を開発したのか?

 高齢化が著しく進む日本では、認知症の高齢者も急速に増加しています。日本医師会による推計数では、2005年には189万人、2020年には292万人となっています。このことは、認知症となられた方の苦しみばかりでなく、各家庭に大きな精神的、肉体的、経済的負担を強いること、合わせて介護保険費用の増大という社会問題をも引き起こすこととなります。更に、最近では若年性のアルツハイマー性認知症の方が現役の労働世代に見られるようになったことが大きな話題となり、認知症は年齢だけの問題ではなく、誰にでも起こりうることであるという認識が急速に広がっています。

 一口に認知症と言っても、その原因や中核症状も異なります。脳血管性認知症の場合には、脳梗塞や脳出血によるものですから、その前提となる高血圧、糖尿病などの身体性あるいは食習慣などの原因を取り除かないと、予防とは言えません。アルツハイマー病は死後剖検による白斑の検出が最終的な要因であることに見られるように、その原因が特定できていないため、根本的な予防は確立できていません。経験的に認知症の症状緩和対策として、これまでとられてきたのは、「音楽療法」「回想療法」などです。

 薬物としてはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬:ドネペジル(商品名アリセプト)1種のみしか日本では認可されていません。しかも、アルツハイマー病の軽症、中等症に効果があるとされるものの、認知機能障害の進行を抑えるものであり、治療するものではありません。認知症の治療、改善、そして予防法が確立されるまでには、まだ時間と研究が必要なのです。残念なことに積極的に認知症予防を進めようとの動きはなかなか見られません。可能なことは、認知症の予防に向けて何か効果のあることを発見、実施することと、認知症の方が残存能力を維持、発揮して少しでも人間としての尊厳を発揮しながら過ごせる環境を作っていくことでしょう。

 このような中で、東北大学の川島隆太教授が脳科学の治験に基づき提唱され、実施された「計算や音読による認知症の改善、予防」は未だ少ない例ではありますが、認知症の方への朗報と言えるものです。

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2.認知症予防プログラム「脳元気タイム」の開発経緯と実践

 脳研は、川島教授の指導のもと、前頭前野を活性化するアクティビティはなにかを発見、開発することをしてきました。(2004年発刊の「高齢者のアクティビティーグッズ」には200点に及ぶ脳活性化実験の成果をまとめました)その成果を使えば「前頭前野の機能低下によって社会生活に支障をきたしている認知症の方」に有効であるかもしれないという仮説を持ちました。そして、実際に老人保健施設で認知症の予防改善につながると推定されるアクティビティーグッズを使って効果を試しました。

  • ● 研究期間(第1期):平成16年11月~平成17年2月。週1回実施。
  • ● 研究場所:府中市・府中本町、片町、矢崎町等南部地区4箇所の公共施設
  • ● 研究体制:東北大学・川島研究室 / 学研 脳力開発研究室 / 老健施設「ピースプラザ」
  • ● 認知症予防プログラム実施内容(脳元気タイム)
    • 東京都府中市では、要介護認定を受けていない65歳以上の健常高齢者を対象に地域の公民館を利用した「地域デイサービス」が週1回行われていた。この参加者の方に協力をいただき、月曜日と金曜日の各コースで午後のおよそ45分間を認知症予防プロジェクト=「脳元気タイム」に充てた。但し週1回の実施と少ないため自宅で行うための学習系の「宿題」を3日分配布した。(翌週提出)
    • 実施内容は脳活性実験で、前頭前野活性度の高かった「簡単な計算」「漢詩のなぞりがき(毛筆)」「クロスワード」などの「テキストを使った学習」である。但し、これだけだと「勉強をさせられている」感が強い方もいるため「スポーツゲーム」を組み合わせた。例えば「ボールによる的あて」「輪投げ」などである。
      ☆ 但し、非介入の曜日も作った。通常の活動だけで脳機能検査のみ実施。
  • ● 対象人数、年齢
    • 月曜コース=参加10名(男性2名、女性8名)平均年齢80.7歳
    • 金曜コース=参加12名(男性2名、女性10名)平均年齢73.8歳
    • 火曜コース=参加9名(男性1名、女性8名)平均年齢78.8歳
    • 木曜コース=参加8名(男性2名、女性6名)平均年齢77.4歳
  • ● 研究方法
     上記、「脳元気タイム」を3ヶ月実施し(週1回)、前後に一人ずつ3種の脳機能検査を行い非介入群との間に有意差が出るかを検証する。

     脳機能検査は、高次脳機能検査で世界的に標準検査となっている★MMSE(30点満点)、主に大脳前頭葉の機能を測定する★FAB(18点満点)、一般知能検査である★WAIS-Rのうち、符号テストの3種類を行なった。いずれも了解を得たうえで個人的な対面方式で行い、個人データは一切出していない。集団として統計処理をしている。
  • ● 結果
    • 「脳元気タイム」を実施した集団と、しない集団で3ヶ月前と後の脳機能検査を行った。そのデータは統計解析の上、東北大で判定していただいた。

      「MMSEの結果を見ると、介入グループの月、金コースとも認知機能は維持するのに比べ、対照群(非介入)の火、木コースは、統計的に有意に低下している。 よって、本介入方法(脳元気タイム)は認知機能低下を防止する効果があると考えられる。前頭葉検査(FAB、WAIS-R)に関しては、介入、非介入群とも微増しているかに見えるが、これは統計上のゆらぎに相当し、有意な変化とはみなされない」
    • 認知機能の低下防止に効果があると認められる結果が出たことは朗報といえる。前頭葉検査で有意な結果が出なかった原因については
      • (1)週1回の介入では限度があるのではないか。最低週2回は実施すべきである。補う意味での「宿題」の実施が大切である。
      • (2)非介入グループとは言っても、午前中は体操、午後は手芸などを行なっている。何もしていない集団と比較できれば結果は異なったかも知れない。
第2期研究について

 第1期研究の対象は地域の健常な高齢者であり、週1回の援助で脳機能が有意に維持されることが実証された。ここで週2回行なえれば脳の前頭葉機能の維持、改善につながるかもしれない。ただ、実際の運用上、不可能なことであった。そこで、次なる研究として対象を要介護の高齢者にあてることにした。協力を老人保健施設「ピースプラザ」にお願いし、ショートスティとディサービスの利用者の方を対象として第2期研究を実施した。今回の特徴は脳元気タイムを週2回行なうことと、対象者が要介護の方で脳機能のレベルも少し異なることであった。従って、学習系の課題も負担の少ないものにした。計算なども1期は全員同じものだったが、2期では能力に合わせて3段階にして負担感がなくできるようにした。

  • ● 研究期間(第2期):平成18年1月~平成18年4月。週2回実施。
  • ● 研究場所:府中市老健施設「ピースプラザ」
  • ● 研究体制:東北大学・川島研究室/ 学研 脳力開発研究室/ 老健施設「ピースプラザ」
  • ● 認知症予防プログラム実施内容(脳元気タイム)
    • ディサービス利用者及び、ショートスティ利用者の方に協力をいただき、午前、午後のおよそ30分間を認知症予防プロジェクト=「脳元気タイム」に充てた。今回は週2回の実施と、学習系の「宿題」を3日分配布した。(翌週提出)
    • 実施内容はの脳活性実験で、前頭前野活性度の高かった「学習系アクティビティ=計算、書写、そろばん」と「スポーツゲーム系アクティビティ」の組み合わせ。
      ☆ ディサービス、ショートスティともに非介入群をおく。脳機能検査のみ実施。
  • ● 対象人数、年齢
    • 介入ショートスティ=参加15名(男性3名、女性12名)平均年齢84.8歳
    • 介入ディサービス=参加17名(男性4名、女性13名)平均年齢79.2歳
    • 非介入ショートスティ=参加8名(男性1名、女性7名)平均年齢89.0歳
    • 非介入ディサービス=参加15名(男性5名、女性10名)平均年齢77.0歳
  • ● 研究方法
     上記、「脳元気タイム」を3ヶ月実施し(週2回)、その前後に一人ずつ3種の脳機能検査を行い非介入群との間に有意差が出るかを検証する。
    脳機能検査は、MMSE、FAB、WAIS-R符号テストの3種類を個人ごとに対面調査方式で行う。*個人データは一切出していない。集団として統計処理をしている。
  • ● 結果
    「脳元気タイム」を実施した集団と、しない集団で3ヶ月前後の脳機能検査を行った。そのデータは東北大学に送られ、統計解析の上、判定していただいた。

    ショートスティ(入所者)では
    「入所者では、介入群の認知機能(MMSE)と前頭前野機能(FAB)の平均得点に有意な変化がなく、対照群では前頭前野機能が半年間で有意に低下したことがわかります。したがって、今回の介入で、脳機能の低下を防止したといえます。
    ディ(通所者)では
    「通所者では、介入群の認知機能(MMSE)と前頭前野機能(FAB)の平均得点が有意に改善し、対照群では双方ともに変化のないことがわかります。したがって、今回の介入で、脳機能を向上したといえます。」


    認知機能の低下防止に効果があると認められる結果が出たことに加え、前頭葉検査でも有意な結果が出た。週2回の介入の必要性があるとの前回仮説が確認された。

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3.「脳元気タイム」の展望

 認知機能の低下防止に効果があるとの府中市での実証を経て、東京都大田区にある学研の介護施設「ココファン南千束」でも「脳元気タイム」を実施している。ここではディサービスの方を対象に職員と楽しい時間を過ごしておられる。

 また、同じ「ココファン」系列で「ココファン藤沢」でも実施。それぞれ同意された方には脳機能検査に協力いただいている。まだ発表はしていないが脳機能に良い結果をもたらしているとの結果を得ている。

  いずれにしても大切なことは、このような施設では「利用者」が満足されることである。食事や風呂のサービスの他にコミニュケーションが増えていることが指摘されている。これは「脳元気タイム」が有効に利用されている証左である。当研究室では「研究」の領域であるが、この成果を踏まえた社会的な事業、運動に発展することを願うものである。

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