お役立ち教育情報 あかはなそえじ先生の 院内学級の教師として学んだこと【第7回】

  • 保護者
  • 幼児
  • 小学生
  • 中学生
  • 高校生

2021.5.13

院内学級の教師として、赤鼻のピエロとして関わるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族との関わり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。

 

傷つきからの回復に必要なこと① 安心と安全の確保

慢性疾患(まんせいしっかん)と呼ばれる病気と付き合いながら生きている子がいます。
難病と言われる疾病をかかえながら生きている子もいます。
このような子どもたちが感じている大きな感情がふたつあります。
それは「恐怖(きょうふ)感」と「無力感」です。

 

~心の傷~

「恐怖感」と「無力感」は、心に傷を負った人が特に持ちやすいもので、
いわゆるPTSD(心的外傷後ストレス障害)をかかえた人の心を支配してしまう感情だと
言われているものです。

いじめや虐待(ぎゃくたい)を受けたり、大きな災害にあったり、命にかかわるような目にあったり、ようなことを目撃(もくげき)したり……。
このような、自分の存在が一気にこわされるような大きなことばかりではありません。
周りから見ていて、それほどショッキングな出来事ではなくとも、日々、じわじわと
傷が深くなっていくような傷つき方もあります。

 

~傷つきからの回復~

病気をかかえている子どもは、心に大きな傷を負っています。
かかえている病気が自分をいじめます。
病気をかかえた自分を、ありのままでよいと思うことは、とてもむずかしいことです。
このような傷つきを持った子どもたちの回復には、三つの大切なことがあると言われています。
そのひとつが「安心、安全の確保」です。

退院が決まった低学年の女の子が伝えてくれました。
2週間ほどで退院ができたお子さんです。
「みんな、私のこと、覚えてくれているかなぁ」──いやいや、2週間ぐらいでわすれるわけはないでしょう。
みなさん、そう思うかもしれませんね。
でも、当事者であるこの子の思いはもっと複雑なのです。

入院している子にとって、院内学級は決して自分のクラスではありません。
在せきを移す手続きをとった子どもたちにとっても、それは同じことです。
自分のクラスは、入院前にいたクラス、もどるべきクラスです。

たった1日や2日、学校を休んだだけでもちょっと不安が出てきます。
「自分が休んでいる間、どんなことがあったのか」「みんな、どうやってむかえてくれるかな」
「どんな顔をして、おはようと言えばいいんだろう」──それが2週間とか1か月とか、
もっと長い場合には数か月休んだあと学校に行くわけですから、
不安な気持ちにならないわけがないです。

「友達から忘れられているかも」
この思いは、子どもたちにとって恐怖以外の何物でもありません。
痛みや熱があって、治療(ちりょう)優先のときには考える余裕はありませんが、ある程度、
症状(しょうじょう)が落ち着いてくると、このような思いが大きくふくれ上がってきます。

入院していた中学生の女の子が「もう少し、入院していたいな」と言い、
退院日が延びたときにもがっかりした様子が見られませんでした。
「学校にもどるのが心配?」と聞くと「うん、なんとなく」という返事。
このとき、部活動の友だち関係に引っかかりがあることを教えてくれました。

 

~自分の居場所~

数日後、再度退院が決まったとき、前回とは様子がちがっていました。
「退院して、学校にもどるよ」という彼女の気持ちが、はっきり感じ取れました。
話を聞いてみると、昨日の夕方に、学校の友だち数人がお見まいにきてくれたことを
話してくれました。

彼女は「友だちが自分の復帰を待っていてくれている」「クラスの友だちとつながっている」
「クラスに自分の居場所がある」という思いを持てたようで、このことが彼女の意識を前向きにしてくれたのだと思いました。

治療に集中しなければならない子どもたちにとって、
学校や友だちの関わりは二次的なことだと思いがちですが、子どもたちは自分を受け入れてくれる、もどれる所がなければ、治療に積極的にはなれないし、回復へ向かおうとはしてくれません。

心に大きな傷をかかえた子どもたちが回復していくためには、もどれる場所があるという安心感を持つことが大切だということを、子どもたちが教えてくれます。

 

第6回はこちら

 


あかはなそえじ先生

あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)

昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当
1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、
1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。
2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。

あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ

好評発売中

四六判・全248ページ

1400円+税

学研教育みらい刊