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研究分野:発達支援研究分野

発達障がいの理解とサポート 「気になる子」のことをもっと知ろう! 幼稚園教諭 特別支援教育士 守 巧

第5回 “クラスの保護者の理解を得る”

2009年10月1日

 保育をしていくうえで、子どもの障がいのあるなしにかかわらず、保護者と信頼関係を深めることは大切です。ただ、配慮を要する子どもの保護者の場合、子どもの行動に悩んでいたり、他児とのトラブルから保護者同士での関係を良好に維持しにくいといった側面があることも多く、その保護者を支える保育者の力がとても重要になってきます。そのため今回は、障がいのある保護者と接するうえで、いくつか配慮すべきポイントを挙げていきたいと思います。

保護者を理解する姿勢を

 保護者は、わが子が集団生活にうまく適応していけるかどうかについて、大きな期待と不安をもっています。その思いは複雑で、時にはわが子が保育者にどのように受け入れられているか敏感になることもあるでしょう。特に、障がいがある子の保護者はひとつひとつのその子なりの行動は理解していても、それが発達年齢に合っているのかどうか疑問をもったり、不安になったりしていることも多くあります。

  こうした様々な思いをもち揺れ動いている保護者と、どのように関係を築いていけばよいのでしょうか。まずスタートは、保護者の思いを十分に聞くことです。その際、いろいろな表現で表される保護者の不安や戸惑いを理解し、受け止めようとする姿勢が重要です。現場にいると、全てを保育者が受け止めるには限界があることもありますが、相手をわかろうとする“姿勢”をもって接し続けていると、それが保護者に伝わり、よりよい関係に繋がっていくことがあります。

 また保護者は、自分が園や保育者にどのように受け止められているのか、自分の考えや今までの子育てを否定されたりしないだろうかとハラハラしながら話していることも多くあります。場合によっては、そのような思いが園に対する強い期待や願いを主張するという形で表れることもあるでしょう。ただそれは、わが子が今後、どのように成長・発達していくのか、ということへの大きな不安がベースにあることが多いのです。そうしたことも念頭に置いて、保護者の思いを十分に受け止めながら、園と保護者とが協力して「共に考え、悩みながら、一緒に子どもの成長・発達をサポートしていきましょう」という関係を築いていきたいものです。ここの「共に」という姿勢がキーワードです。主導権はどちらか一方にあるものではなく、保護者にとって園が“悩みを共有し、共に考えてくれる存在”として感じられるようにありたいものです。

 「思いを十分に聞く」と述べましたが、そもそもその前の段階、つまり保護者が保育者に対して会話の糸口が見いだせていない場合もあります。そのようなときはまず、保護者が話しかけやすい態度を日々心がけることです。「保護者の話にうなずきながら聞いているか」「保護者の方を見て話を聞いているか」など、同僚に日頃の自分に接し方を聞いてみるのもよいと思います。保育者に深刻な相談をするにはエネルギーや勇気を要する保護者もいます。日常的なコミュニケーションを大切にすることを積み重ねるなかで、保護者が「うちの子のこと相談してみようかしら」という気持ちになれるよう、普段からの保護者とのやりとりを大事にしていきましょう。

 また、様子が気になるけれど、なんとなく話しかけづらく、なかなか距離が縮められない保護者もいると思います。そういうとき保育者はあまり焦らず、保護者の心の状態を“見守る”というスタンスを大事にしましょう。この場合のポイントは“放置”するのではなく、常に心に留めておきながら保護者の心のドアをさりげなく叩き続けるということです。

保護者が子どもひとりひとりの育ちに違いがあることに気づけるように

 保護者に子どもの園生活での様子や成長を伝えたときそのまま受け入れられない、保護者の喜びに繋がらないなど、わたしたち保育者が意図したこととは違う印象を与えてしまったということはありませんか? 例えば、「A君は1人であそびに集中していることが多いのですが、今日は自分のやりたいあそびをみんなと一緒に楽しんだんですよ」と伝えたところ、保護者は「友達とやりたいあそびがうちの子だけいつも違うんだ……」という部分を気にしてしまった、というようなズレが生じるということです。

 保護者の思いとしては「みんなと同じように」あそび、集団の中で活動していくことを望んでいることが多いです。仮にその子が集団の場にいられるようになったり、落ち着いてあそびを楽しめるようになったりしたとしても、「みんな」という比較対象の姿とのズレに「どうして」「やっぱり」と、かえっていらだちを覚えることもあります。保育者としては、そこで保護者との距離を感じてあきらめてしまわず、保護者のその時々の感情の“揺れ”をキャッチし、時には共感もしながら長期的に根気強く、余裕をもって付き合い、支えていくという態度が求められると思います。保護者が抱く「みんなと一緒に」というイメージを受け止めつつ、ひとりひとりの子どもそれぞれの様々な課題があり、クラスの友達と互いに関わりながら成長していくことを保護者が理解できるような配慮や働きかけが大切だと思います。例えば保育参観などを利用して、園生活への理解を深めてもらえるような場や機会を工夫することもその1つでしょう。

 また、様々な姿を示す子どもひとりひとりを園全体で見守っているということへの信頼を、時間をかけて得ていくことも大事です。そのためには、園全体としてその子の保育をするうえでの課題や具体的な指導方法、保護者の情報などを共有し、体制を整えておくことが重要です。そしてその子を担任や担当保育者だけに任せるのではなくて、主任や園長なども保護者と普段から気軽に会話ができるようにしていくことも必要でしょう。ただし、気をつけなければならないことは当然ですが「守秘義務」があるということです。「通勤途中で園児の名前を出して会話(相談)する」などということがないよう心がけたいものです。

保護者とのコミュニケーションのポイント

 では、実際に保護者とコミュニケーションをする場面でのポイントを紹介します。

子どもの良いところを積極的に伝える

 発達障がいのある子、特にADHD傾向が強いタイプの子どもの保護者は、子育てに疲れているケースが多く、自分の子どもの良い面が見えにくくなり、悪い面ばかりが目に付いてしまいがちです。保育者も同様、トラブルが絶えない子どもの場合だと、同じようにその子を捉えてしまうことがあります。そういった捉えは、無意識のうちに保護者との会話にもにじみ出てしまうものです。保育者はまずプロとしてその子の理解者である、ということが大前提です。“その子の名前を呼ぶ時は叱責する時”にならないようにしましょう。

 それらを踏まえて、保護者に園での様子を伝える際「今日は先生のお手伝いをしてくれてとても助かりました」「泣いている子に優しく声をかけていたんですよ」など、良かった場面を積極的に伝えましょう。

重要なことは正直に伝える

 子どもの良い面ばかりでなく、うまく適応できず、その問題について保護者と話し合わなければならないことも出てきます。そういうときは保護者の気持ちを十分に配慮しつつ、「あいまいな表現」ではなく「正確な表現」で伝えるべきだと思います。つまり、“詳しく、かつその出来事がイメージできる”表現方法を使いましょう。例えば「指示が理解できない」という、あいまいで聞いた側のダメージが大きい表現ではなく、「製作内容を話した後、困って立っていることがあります。そのようなときはわたしが再度声をかけるとわかるようです。ただ、その声がけがないと困ってしまうようです」というように、保護者がイメージしやすいよう、具体的な場面を元に話をする必要があると思います。そのようなやり取りを通して、不必要な不安を与えないですむと共に、子どもの実態に合わせてどのように支援をしていくかについて保護者と話し合いができていくと思います。また、このような重要な内容がたくさん出る面談のような場合は、情報を共有したい園長や主任などほかの職員も入るとよいでしょう。行き違いがないように保護者に言った内容、特に自分が言ったことを職員同士で確認しておくうえでも必要になるでしょう。

今月の元気モリモリ先生のQ&A

Q: 以前本で「ADHD傾向の子は廊下側の一番前の席が最も落ち着いて集中できる場所である」と書いてあったのでそのような配慮をしたのですが、逆に落ち着かなくなってしましました。なぜなのでしょうか?

A:日々対応に困り、わらをもすがる思いで実行した配慮だったのではないでしょうか。専門書を読んで実践したのにという悔しい気持ちが伝わってきます。前向きな検討をするうえで、いくつかポイントを挙げていきます。

  1. その子によって違いがあります     
    「廊下側の一番前」は確かに周囲からの刺激が少なく、一般論として「ADHD傾向の子も比較的落ち着ける場所」といわれています。しかし、その子が背が高く後ろの子に「見えなーい」と言われたら……? その子の動きが気になってしまう子どもが同調してしまったら……? その子自身の配慮点を確認するのは当然ですが、全体の状況も確認が必要です。このケースの場合、まずその子が落ち着く席を探し、同時に周りの子どもたちとの相性も見ていきます。右(左)側に友達がいると落ち着かない、見本となる子どもが前の席にいるとその子を見て動ける、この子が隣にいると刺激し合ってしまうようだ、気に入った子どもが隣にいると落ち着くなど様々な状況が見えてきます。情報収集の意味でもいろいろトライしてみましょう。
    発達障がいのある子は、その子によってひとりひとり見せる様子が違い、対応が異なる場合も出てきます。特効薬、万能薬は残念ですが存在しません。わたし自身の経験からも、「書籍から得た知識をベースにオーダーメイドする」ことが大事だと思います。
  2. 本に書かれていることは一般論、または最大公約数です    
    書籍や研究論文などの情報には、現場に役立つヒントがたくさん載ってます。そうしたものを利用しない手はありませんが、前述したように子どもはひとりひとり違います。本に載っている通りにやればよい、ということではありません。そこで終わってしまうと、それ以上の子どもの実態を把握できず、そこでその子への理解はストップしてしまいます。あくまでヒントとして活用し、必要に応じてアレンジしていきましょう。
参考引用文献
  • 『Q&A クラスのなかの「気になること子ども」』 著:渡辺 徹 教育出版
  • 『「気になる子」の保育と就学支援』編著:無藤 隆他 東洋館出版
  • 『幼稚園・保育園での発達障害の考え方と対応』 著:平岩 幹男 少年写真新聞社

編集協力/岡田明子

第5回のテーマは、"保護者同士のトラブル"です。

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