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元教育長の子育て歳時記

第16回・初夏「学ぶ意味を知り、意欲を持って、深い学びに向かう子どもたちを支えたい」 学研教育総合研究所 客員研究員 高橋良祐

平成30年度から、小学校では先行して次期学習指導要領による教育が始まる。

次期学習指導要領は、文部科学省の学力・学習状況調査や国際調査のPISA調査やTIMSS調査などによって明らかになった我が国の子どもたちの学びや生活の状況、今後の時代予想を受けて、これまで以上に多面的且つ多くの議論を重ねて作成されたものである。

特に、多年にわたる各種調査によって、我が国の子どもたちは基礎的な教科内容の理解・技能面では国際的に上位である一方、読解力や課題発見力、論理的な説明力や表現力に課題があり、学習と生活の結び付きの弱さが指摘されてきた。つまり、学びを生活場面で活用する力が身についていないということである。さらには、日本の子どもたちは他国の子どもと比較すると自己肯定感、主体的に学習に取り組む態度や学習意欲が相対的に低く、社会参画意識も低い実態が明らかになっているため、次期学習指導要領はこれらの教育課題を解決するために作成された内容となっていると考えることができる。

今回の改訂は新教科道徳、英語が加えられた他、教科各教科の学習内容に大きな変更点はないが、学びの質や学び方、評価といった教育の本質的な在り方の変革を伴ったものとなっている。
今回のコラムでは、学習指導要領の中核を担う3つの柱に焦点を絞り、子どもたちに身に付けてほしい資質や能力をどう育成するか、指導と評価の在り方の面から考察してみたいと思う。                                             

  1. 「生きて働く『知識・技能』の習得」
    ―何を知っているか、何ができるか―

    ・これまでの日本の教育は、教科等で学んだ知識・技能の量を重視し指導や評価をしてきた。しかしこれからは、学んだ知識・技能を社会の様々な場面でICTなどを使って自在に活用できるように教育を進めていくことが重要である。どのような授業にすれば社会で活用できる知識・技能を身に付けられるようになるのか、これからの授業の在り方が大きく問われている。

  2. 「未知の状況にも対応できる『思考力・判断力・表現力等』の育成」
    ―知っていること・できることをどう使うか―

    ・様々な情報の中から未知の問題を発見し、結果を予測しながら解決の方法を計画し、実行し、次の問題発見解決につなげること。他者と情報を共有して、多様な考え方を統合し、協働して問題解決や知的創造を図るために必要な思考力・判断力・表現力を育成することが重要である。

    ・そのためには、まず自分の考えを持つことの大切さを子どもたちに理解してもらえるように学習経過の中で形成的、肯定的に子どもの学習活動を評価する必要がある。

    ・思考力・判断力・表現力の育成とともに、子どもの個性と一人一人の考えを丁寧に取り上げ、社会や生活とのつながりを意識した意味のある (子ども自身が解決したいと思える) 問題解決学習の場を設けることが肝要となってくるだろう。

  3. 「学びを人生や社会に生かそうとする『学びに向かう力・人間性』の涵養」
    ―どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか―

    ・主体的に学習に取り組む態度や学びに向かう力、自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考のプロセス等を客観的にとらえる力(メタ認知)、多様性を尊重し互いの良さを生かし、感性・優しさ・思いやりなど人間性に関わる能力の育成が求められている。

    ・特に、学ぶ意欲を高めるためには、学ぶ意味についての子どもたちの問いに正しく答える教育を進めることが重要である。そのためには、社会や生活の中から子どもたちが知的好奇心や興味関心を抱ける学習課題を設定し、自ら解決したいと思える動機づけを工夫することが必要である。単に教科書の問題を解き答えを出せば終わりということから、子ども自身が解決すべき課題と思えるもの、言い換えれば解決したことを社会や自分の生活に関連させながら使いたくなるような課題とすることが求められる。

          
                                    

繰り返しになるが、私は親や教師、社会が子どもたちの「何のために学ぶのか」という素朴な問いにきちんと向き合うことが極めて重要であると考えている。そのためにも教育は他者との比較をするのではなく、子ども一人一人の人格を尊ぶとともに、子どもの思い・考え・行動・興味関心・社会とのつながりを尊重し学習課題を設定することが必要不可欠である。周囲が子ども一人一人の学びに対して肯定的に接し、加点主義の評価を日々積み上げて子ども自身に自信を持たせることで、子どもには生きる意欲・学ぶ意欲・学びに向かう力をもとにして友人や社会、自然との交わりを楽しむ日々を過ごしてほしいと願っている。きっとその中から新たに知りたいこと、不思議なこと、やってみたいことなどが生まれてくるはずだ。

また、それを実現させるためには、これまでの教育の考え方を転換させる必要がある。暗記、技能習得至上主義で100点満点を目指す教育から、「自分の考えを持つこと」「自分の考えを深めること」「自分の考えを表現すること」「対話的に学び探求すること」を大切にする教育を行うことが求められている。言い換えれば、満点から減点していく評価から、思考の内容やそのプロセス、自分の考えを様々な方法で自由に発想し、表現したことを加点して評価することへの転換が必要だということである。
この大きな変革は学校の先生方の努力のみでは到底達成できない。学校・地域・家庭が協力して予測不能な社会を生きる子どもたちを励まし、頑張りを認めるとともに、教育の在り方を真剣に考え、取り組むことが、これからの教育改革の成否を握っていると考えている。

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高橋 良祐(たかはし りょうすけ) 1953年栃木県生まれ 学研特別顧問、学研教育総合研究所客員研究員
高橋 良祐

東京学芸大学教育学部数学科卒業後、小学校教諭に。東村山市立秋津東小学校、世田谷区立東大原小学校を経て、町田市立鶴川第三小学校の教頭に。その後、中央区教育委員会・指導主事、港区教育委員会・指導室長、東村山市立化成小学校校長職を経て、港区教育委員会の教育長に就任。教職経験を生かし、ICTや英語教育、国際学級など、教育改革に取り組む。2012年10月に退職。

2013年4月から、学研ホールディングスの特別顧問、学研教育総合研究所の客員研究員に就任。豊富な経験から適切なアドバイスなどを発信している。

おもな著書(共著):
「新しい授業算数Q&A」(日本書籍)
「個人差に応じる算数指導」(東洋館出版)

写真撮影:清水紘子 (イメージ写真を除く)