TOP > コラム > 元教育長の子育て歳時記~ 第14回・秋 「主体性」「自立心」「学習意欲」「自尊感情」「自己の有用性」をはぐくむ 高橋良祐

元教育長の子育て歳時記

第14回・冬 「主体性」「自立心」「学習意欲」「自尊感情」「自己の有用性」をはぐくむ 学研教育総合研究所 客員研究員 高橋良祐

秋に手紙などを出す際に使われる時候の挨拶としては、「日増しに秋が深まり」「実りの秋となり」「澄み切った青空に紅葉が映える季節になりました」などが思い浮かぶ。

いずれにしても、蒸し暑かった夏に終わりを告げ、秋は人々にとっては日々過ごしやすく爽やかな、しかも美しい実りの季節として位置付けられているように思う。

そして、学校教育にとっては一年で一番長い学期であり、教育内容も教科指導のみならず運動会や学芸会・音楽会・展覧会などを実施し知・徳・体、全てに光を当てて幅広く充実した教育をすべく大変忙しい時季でもある。このような教育活動は、世界の教育界を見ても日本独特のものであるといわれる。

日本の先生方は豊富な指導内容を計画的に実施しているだけでなく、指導方法の研究にも熱心に取り組んでいる。それが全校をあげて毎年取り組んでいる校内研究会である。研究の内容は多岐にわたるが、教科指導の在り方や教科を超えた指導方法の研究を行う学校が大半を占める。世界の教育研究者は、日本の学校の質の高さを維持し発展させてきた要因をこの研究活動ととらえ、その研究を高く評価し注目している。

私もいくつかの学校の先生方と研究会の同人として研究活動をしているが、工夫に満ちた実践提案である研究授業は、生き生きとした子ども達の学びの姿で満たされている。相当な時間をかけて準備してきたのだろうことは想像に難くない。

国際調査 などによって、日本の子ども達は「主体性」「自立心」「学習意欲」「自尊感情」「自己の有用性」などいわゆる「生きる力」が他国の子ども達より低いと指摘されている。そのため学校では、子ども達の能動的な学び「アクティブ・ラーニング」についての考察と、21世紀型能力をいかに学校教育の中で育成するのかといった議論をもとに、実際の授業改善や実践をさまざまに工夫すべく奮闘努力している。このことは、まさにこれらの課題解決が急務だと認識しているからだともいえる。先生方の真摯な取り組みに心から感謝するとともに、その研究成果に大いに期待したいと思う。

ここで更に考えてみたいことは、現代の子ども達の課題は学校教育の改善だけで成し得るものなのかということである。私は、家庭や社会での教育の改善なくしてこの課題解決は図れないと考えている。

人間は日常生活の中で、他の人々や社会、自然と出会い触れ合いながら人としての在り方や社会の仕組みを理解し、豊かな情操や健やかな体などを日々育むと言われている。自分自身の成長を振り返ってみても、子どもたちの育ちは学校教育のみならず、家庭や社会での過ごし方や関わり方に大きく影響を受けていることは共通して理解できると思う。

では、「主体性」「自立心」「学習意欲」「自尊感情」「自己の有用性」を育むために、家庭・社会は子どもたちとどう向き合い関わっていけばいいのだろうか。簡単に結論付けできない難しい問いであることは間違いないだろう。

子ども達は国や地方の文化や伝統、気質、時代ごとの基本的な考え方、流行などによって大きな影響を受け成長していく。国際調査 では、日本の子どもは国際的に上位の成績であるにも関わらず、勉強が楽しいとか、もっと学びたいとか、勉強が生活改善や将来に役立つものと思っていないことが多く、また自分自身に自信が持てず将来に不安を抱えているという指摘もされている。

ここで特に私が指摘したいことは「日本人の生真面目さからくる結果主義」「常に他との比較からなる相対評価」が子どもの育ちに大きく影響しているのではないかということだ。「主体性」を育むには、子どもを指示・命令で育てないこと、「自立心」を育むには、子ども自らの考えや行動を認め励ますこと、「学習意欲」を育むには、子どもの考えを大切に扱い結果のみで評価せず子どもの試行錯誤を褒め励ますこと、「自尊感情」を育むには、唯一無二の存在として子どもを愛していることをきちんと伝えること、「自己の有用性」を育てるには、子ども自身が気づかない子ども自身の大切な役割を伝え続けることが重要である。

これらは、子どもの成長を見守る立場同士が連携しながら実現していくことが大切である。家庭・地域社会・学校それぞれの立場が、子ども達との関わりを具体的にどう改善していくのかを考え実行し続けてほしいと願っている。すべての大人が子どもを慈しみ大切に育てることを心掛け、子どもには子ども自身の人生を確かな足取りで歩み、人生を楽しんでもらいたいと思う。

▲このページのトップに戻る

高橋 良祐(たかはし りょうすけ) 1953年栃木県生まれ 学研特別顧問、学研教育総合研究所客員研究員
高橋 良祐

東京学芸大学教育学部数学科卒業後、小学校教諭に。東村山市立秋津東小学校、世田谷区立東大原小学校を経て、町田市立鶴川第三小学校の教頭に。その後、中央区教育委員会・指導主事、港区教育委員会・指導室長、東村山市立化成小学校校長職を経て、港区教育委員会の教育長に就任。教職経験を生かし、ICTや英語教育、国際学級など、教育改革に取り組む。2012年10月に退職。

2013年4月から、学研ホールディングスの特別顧問、学研教育総合研究所の客員研究員に就任。豊富な経験から適切なアドバイスなどを発信している。

おもな著書(共著):
「新しい授業算数Q&A」(日本書籍)
「個人差に応じる算数指導」(東洋館出版)

写真撮影:清水紘子 (イメージ写真を除く)

コラム(インタビュー/エッセイ)

インタビュー

エッセイ