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元教育長の子育て歳時記

第12回・初夏 野菜作りと人づくり 学研教育総合研究所 客員研究員 高橋良祐

熊本地震が起きて一か月が過ぎた。何の前触れもなく突然襲ってくる大地の脅威に為すすべもない。被災された多くの皆さんに心からお見舞いを申し上げるとともに、一日でも早く日常の生活が取り戻せるように願ってやまない。
こういう時だからこそみんなで心を合わせ、力を合わせ、できることを一つ一つ積み上げていくのが大切だと思ってはいるが、5年前に起きた東日本大震災でさえ、被災された方々が未だ元の生活に戻れていない現実もあり思いは複雑である。災害の実態を知るにつけ、自然とのかかわりの難しさを強く感じる。

人類は古来より自然から与えられた様々な恵を活用するとともに、災いや課題を克服していく中で多くの文明を築いてきた。また、自然は人間の無力さを教える一方、人間の日常の営みの中で感性や創意工夫などの知恵を生み出す環境を与えている。

昨年から我が家は、小さな畑を借りて、野菜の栽培に取り組んでいる。我が家と表現したが、実際は妻がほとんど毎日せっせと働き、私は時々手伝っている程度だ。妻の熱心な仕事ぶりを見たとき、よりよい畑づくりには基礎的な知識技能はもちろんだが、素人なりの創意工夫をしようとする情熱と感性が必要だということを強く感じた。

まわりの畑を観察してみると、筋金入りのベテランの方々の畑は実に理にかなった畑だと感じた。理に適ったと表現したのには訳がある。毎日の自然環境の違いに目を向け、人が自然と作物と対話をしつつ見事に調和を図りながら楽しく畑仕事を計画しているように感じたからだ。でなければ、よい野菜がほしい時期に適量に育ってくれないのは当然だ。野菜の種類によって、畑の耕し方から、植える場所、時期や量、肥料や散水、雑草取りなど、どれをとっても実に多様でそれぞれが密接に関連した作業ばかりである。

例えば、同じ野菜でも植える時期を少しずらせば収穫時期もずれ、新鮮なものを長い期間食べられる。植え過ぎず適量を植えれば風通しもよく、病気や害虫などの被害も少なくなる。簡単なことのように感じるが、実際畑仕事をして初めて分かることばかりだ。どうしても私のような素人は植え過ぎ、肥料も与え過ぎてしまうようだ。梅雨時や日照りの時、台風や霜などの気候状況に合わせ、作物だけでなく土そのものに最新の注意を払いながら管理しなければならない。

畑仕事は、本当に難しく興味深いが、野菜を育てることと、人を育てることには通じるものが多いと聞く。先ずは、双方とも育てる側に基本的な知識技能がなければならないのは言うまでもないが、野菜作りは、それぞれの作物の特性を知り抜き、種類に応じて適切な畑の環境を整え、植え付け時期から計画的にさまざまな作業を組み込み、時には風雨から作物を守るため最善の対応を図るなどして最も良い時期に収穫する。なるほど、野菜を人に置き換えてみても教育に当てはまることばかりである。

野菜作りから学べることはまだまだたくさんあるに違いない。だが、素人の野菜作りと人づくりで決定的に異なるのは、「今年は不作でも来年頑張ればいいや」では教育は済まされないことだ。教育は、日々成長している子どもたちの発達段階や個性に合わせて意図的・計画的に行うことが大切だといわれる。また、子どもたちの日常生活は変化に富んでおり、子どもの揺れ動く心情に寄り添い、そして温かく適切な支援を行う必要がある。適切な支援とは、子ども達一人ひとりを人格の異なる個性をもった人間として尊重すること。家族はもとより周囲の人々が心と力を合わせて、子どもの生育状況に応じて焦らずじっくり子どもを見守ること。子どもの状況や求めに応じた環境を整えること。育てる側が楽しく、感性豊かに、創意工夫して、情熱をもって協働することだと考えている。

子供たちが多様な自然や社会の中で、自分の興味関心を広げ、感性をはぐくみ、体力を備え、豊かな人間関係を築き、様々な知識や技能を吸収し、持てる力を主体的に発揮し、世の中の発展に尽くせる人に育つように切に願っている。

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高橋 良祐(たかはし りょうすけ) 1953年栃木県生まれ 学研特別顧問、学研教育総合研究所客員研究員
高橋 良祐

東京学芸大学教育学部数学科卒業後、小学校教諭に。東村山市立秋津東小学校、世田谷区立東大原小学校を経て、町田市立鶴川第三小学校の教頭に。その後、中央区教育委員会・指導主事、港区教育委員会・指導室長、東村山市立化成小学校校長職を経て、港区教育委員会の教育長に就任。教職経験を生かし、ICTや英語教育、国際学級など、教育改革に取り組む。2012年10月に退職。

2013年4月から、学研ホールディングスの特別顧問、学研教育総合研究所の客員研究員に就任。豊富な経験から適切なアドバイスなどを発信している。

おもな著書(共著):
「新しい授業算数Q&A」(日本書籍)
「個人差に応じる算数指導」(東洋館出版)

写真撮影:清水紘子 (イメージ写真を除く)

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