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元教育長の子育て歳時記

第10回・秋 子どもの命を守る「自由と規制」のバランス 学研教育総合研究所 客員研究員 高橋良祐


9月の北関東や東北地方をおそった集中豪雨の被害に遭われた多くの皆様に心からのお見舞いを申し上げたい。

近年、連続的に一定の地域に豪雨が集中し、尊い命や生活基盤を奪う思い掛けない被害をもたらす災害が頻繁に起こっている。地球温暖化の影響が全地球で異常気象を引き起こしているという専門家もいる。地球温暖化が進行しているのは人間が自然の摂理に逆らいながら便利さを追求し自由奔放に生きてきた結果であることは自然科学や気象の素人である私にでさえ理解できる。自由の追求と規制のバランスをとることは地球環境の保全の観点からも重要なことだと思う。

さて、前回のエッセイでも記したが、夏休みは子どもたちが様々な体験や経験を通して心身ともに大きく成長できた日々だったと思う。そんな中で、とても悲惨な事件や事故も起こった。未来ある子どもたちの命に関係する事故ほど残念で悲しいことはない。毎日のように起こる事故は防ぐことはできないのか、いろいろな角度から検証し、尊い命を守り子どもの未来への道を整えていく必要を強く感じる。
特に、この夏、大阪府寝屋川市での中1男女が殺害された事件には大きな衝撃を受けた。彼らのこれからの長い人生には、数多くの夢や希望、出会い、充実した生活が待っていたはずだと思うと無念でならない。

私は、報道からしか事件の状況を把握できず、全容も十分理解してはいないが、なぜ現代社会がこの事件を防ぐことができなかったのか、緊急に且つ真剣に問う必要性を感じている。最も憎むべきは事件を引き起こした犯人に違いないが、今回は犯人に対しては述べるつもりはない。なぜなら、例えそのような人間がいたとしても二人の中学生の尊い命を救うことはできなかったのか、いや救えるいくつかの重要な事柄があったのではないかということを私なりに考えてみたいからである。


第1として、子どもの自由と規制について。
子どもにとっても自由は最も大切にされるべき権利であるが、それにはやはり条件があるように思う。
中学生とはいえ、人間の発達段階からみて、自分の身に降りかかる危険予知、防止、対処、危険回避などを正確・迅速に判断し対応できるまでには十分に成長できていない。だからこそ、保護者や社会は未来の宝である子どもたちを安全な環境のもとで保護・養育することが求められると思う。

それには、適切な規制が必要である。たとえば門限。最近はあまり耳にしない言葉だが、とても大事な約束ごとだ。帰宅時間を決めているのに、それをはるかに超えた真夜中に子どもが帰宅していないなら、子どもの行方を捜索するだろう。この事件の場合も命を守れる十分な時間があったはずだ。

時間だけではない。子どもたちと交わす他のルールも、全家庭でぜひ話し合い作ってほしい。
ネット社会の中で情報機器に関わるトラブルも多発している。インターネットやSNSの適切な使用を制限し守ることがぜひ必要ではないか。子どもを守るための制限とは、「命を守り、子どもが個性を伸ばせる安全な環境を大人が作る責任である」と心得ることが重要なのではないだろうか。

第2として、社会全体で子どもを見守る。
見守るとは、安全な環境を整えながら常に子どもの存在を自らの意識の中に置き、子どもを観察することである。子どもを見守るの「守る」ことが抜け落ちていては真に社会の宝である子どもを十二分に育てることはできない。
二人の中学生は夜から早朝までの相当な時間を寝屋川駅近辺で行動していたことが多くのニュースの情報から知ることができる。その間、複数の大人が二人の姿を見かけたであろう。批判や非難をするつもりはないが、残念なのは、まだ幼さの残る二人の中学生が真夜中に駅周辺をあてもなく行動しているさまをまわりが不思議がらなくなってしまった現代社会の現実である。
あのとき、彼らの行動に対して注意を促したり、更には危険を察知して警察に一報してくれていれば…と思うのは私だけではないはずだ。


よく無関心社会と表現される時代である。であっても、私を含めた大人が未熟な子どもたちに多くの関心をよせ、子どもたちがより安心して暮らせる社会の中、精一杯伸び伸びと成長できる世の中を作っていきたいと思う。
と同時に、家庭においては、さまざまな学び、趣味、スポーツ、将来への希望や進路など、子どもの自由と自主性・主体性を最大限尊重するとともに、「自由と規制」のバランスを保ちながら「我が家の約束・決まり」作りを最重要視してほしいと強く思っている。そして、各家庭や社会の安全な環境の中で、今年の秋が子どもたちの学びの秋、スポーツの秋、芸術の秋、個性伸張の秋になることを重ねて願うばかりである。

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高橋 良祐(たかはし りょうすけ) 1953年栃木県生まれ 学研特別顧問、学研教育総合研究所客員研究員
高橋 良祐

東京学芸大学教育学部数学科卒業後、小学校教諭に。東村山市立秋津東小学校、世田谷区立東大原小学校を経て、町田市立鶴川第三小学校の教頭に。その後、中央区教育委員会・指導主事、港区教育委員会・指導室長、東村山市立化成小学校校長職を経て、港区教育委員会の教育長に就任。教職経験を生かし、ICTや英語教育、国際学級など、教育改革に取り組む。2012年10月に退職。

2013年4月から、学研ホールディングスの特別顧問、学研教育総合研究所の客員研究員に就任。豊富な経験から適切なアドバイスなどを発信している。

おもな著書(共著):
「新しい授業算数Q&A」(日本書籍)
「個人差に応じる算数指導」(東洋館出版)

写真撮影:清水紘子 (イメージ写真を除く)