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スペシャル インタビュー

特別企画/前学習指導要領の改訂に向けて 文部科学事務次官 前川 喜平

去る12月21日、学習指導要領の次期改訂に向けた答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策について」が出され、学習指導要領の改訂作業は詰めの段階に入っている。今回の学習指導要領の改訂について、前川喜平事務次官にお話をうかがった。

言葉は新しいが、方向性は従来と同じ

今回の学習指導要領改訂の議論のなかに、いくつかキーワードがあります。例えば、アクティブ・ラーニング、社会に開かれた教育課程、カリキュラムマネジメントなどです。今まであまり使われていなかった言葉で耳慣れないかもしれませんが、中身は1980年代に行われた臨教審(臨時教育審議会)以来、今までやってきたことの延長と考えていただいてよいと思います。

自ら学び、自ら考えるような学習を進めていこうというのがアクティブ・ラーニングですが、自ら学び、自ら考えるという言葉は以前からありました。社会に開かれた教育課程も、実社会での実体験とつなぎ合わせながらカリキュラムをつくるという話であって、従来からの体験を踏まえた学習の延長線上にあるわけです。

学習内容が活用される場面を意識した授業づくり

現在は高校進学率98%以上で、大学も全入時代といわれていますが、子どもたちから「どうして勉強しなければいけないの」と問われたら、何と答えたらよいのでしょう。「入試があるから」という理由では、もはや子どもたちは納得しないでしょう。では何のためか。一つには、社会人として自立し、他の人たちと協力しながらよりよい社会をつくっていく力を身につけるため、というのがあります。そのためには、各教科、各単元で学んだことが、世の中でどう使われているのかを、今まで以上に意識しながら学習することが大事になってきます。

学習内容が社会で活用される場面を意識したカリキュラムをつくるためには、各学校・子どもたちが置かれている地域的な文脈、その地域の抱えているさまざまな課題等を把握する必要があります。そして、最低基準であり、大綱的基準である学習指導要領をふまえてカリキュラムをどうつくるかは、もともと学校ごとに任されているのです。先生自身も自ら学び、自ら考え、その裁量をフルに発揮していただきたいですね。

生きたツールとしての英語と国語

英語教育に関して、4技能の重視といった「きちんと使える英語」にするための抜本的な改革が必要性だということは前からいわれています。
新しく小学校に教科として英語を導入するにあたっては、不安も大きいだろうと思います。その指導体制をどうつくっていくかが非常に大きな課題ですね。具体的には、教科担任制をどう取り入れていくか、ALTをどう配置していくか、指導法や教材をどう開発するか、ICTをどう使うかなど、あらゆる手段を導入しながら進めていく必要があります。

英語における4技能の重要性は国語にも当てはまります。国語は、論理的な思考や表現のためのツールであり、他の教科を学ぶときのベースになるわけです。このことは、言語活動の重要性として前回の学習指導要領改訂時にも触れられています。論理的かつ実証的に考えて、それを表現し、伝えて議論する。これは全ての基本であり、そのためのツールとしての日本語(国語)をきちんと身につけることが大事です。

高等学校の改訂

高等学校に関しては、前回の学習指導要領改訂では抜本的なところまで切り込んでいませんでした。今回は高等学校の教科の構成そのものについて、大きく見直しています。そしてこの改訂の重要な点は、「世の中に出たときに役に立つ」という観点だけで改訂されているわけではないということです。

教育とは何か、ということを考えたときに、過去の文化の継承というものは一つの重要な柱で、将来役に立つかどうかだけで見てしまうと、「何を学ぶべきか」というときに判断を誤ってしまいます。過去の文化の継承という部分と、未来を生きる人間として必要なものを身につけるという部分の両方のバランスが必要だと思います。

もっと自信を持ってほしい

日本の生徒は客観的には成績はよいのですが、興味関心や道具的有用性、自己効力感などが低い。これはPISAで明らかになったことですが、世界は逆で、日本よりも数学の成績は低いのですが、数学がおもしろく、役に立つし、得意だと思っている。この逆転現象が日本の課題ですね。おもしろいから勉強するという生徒がもっと増えてほしいと思います。

また、日本の生徒はすごく自信がない。「自分はこれが得意だ」というものをもっと持ってほしい。そういう部分を高めるためには、個に応じた指導やアクティブ・ラーニングが重要だと思います。
アクティブ・ラーニングは、大学教育改革のキーワードとして主張され始めたものですが、いちばんアクティブ・ラーニングをやっているのは幼稚園だと思います。そして、学校段階が上がるにつれて、アクティブ・ラーニングがうまくいかなくなってくる。高等学校の先生方も、小学校の先生の子どもの自主性を引き出す指導方法を参考にされたらいいのではないでしょうか。

2016年8月16日インタビュー

教育ジャーナル12月号」2016年より一部表現を変えて、部分抜粋
協力:(株)学研教育みらい・教育ジャーナル編集部
編集:学研教育総合研究所 教育情報研究室 大塚恵理子

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前川 喜平(まえかわ きへい)1955年奈良県生まれ。文部科学事務次官
馳 浩

東京大学法学部卒業。1979年文部省入省。文部科学省初等中等教育局教職員課長、財務課長、初等中等教育企画課長、大臣官房総括審議官、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官などを歴任し、2016年6月より現職。